トガリ大臣 爆誕
ラザトが上機嫌の時には気をつけた方がいい。なぜか俺にはそんな感じがしてならないんだ。
仕事がもらえるのはうれしいことだが、果たしてそれがヤバいのかヤバくないのか。
「隊商の護衛だ。トガリから聞いたろ。見当は付くよな?」
いかにもラザトらしい言い方だ。つーかトガリのことを盗み聞きでもしてたのかっていうくらい。
「お前たちがここを出てしばらくしたら、田畑の土壌が目に見えて悪くなってきたんだ、原因は分からねえ。収穫前のイモは軒並み腐って溶けるわ、麦は黒く枯れるわでめちゃくちゃだ」
そこへトガリが割って入った。「さっきも言ったとおり、このままだとリオネングの食料が枯渇する危険性があるんだ。今は場内に備蓄してある作物でまかなっているけど……先日のバクアの火山爆発の影響で魚介類が獲れる量も著しく減ってしまって」
「ンで、どっから食い物をもらってくるんだ?」
「スーレイと、僕の故郷のアラハスさ……あそこには戻りたくなかったんだけどね」
そういやスーレイって以前話してた、薬草のある国だったっけか。北の方にあるんだよな。
「トガリが俺に持ちかけてきたんだ。つまりは……」
ラザトは誇らしげに、トガリの頭にポンと手を置いた。
「依頼人はトガリ。そしてこの輸送隊のリーダーもトガリだ」
俺もそうだが、おおっと一気に周りがどよめいた。
いや、その……トガリにそんな大役が務まるのか?
そして、と一拍おいてラザトは続けた。
「あくまでこの危機的状況での非常的措置だが、本日をもってトガリは我がリオネングの交易大臣に任命された」
え。
つまり……これからはトガリ大臣ってワケか!?
しかしなんでこんなことになっちまったんだ?
「みんながいない時だよ。バイト先のマスターの代理で商工会の会議に参加して、そこで不作のことを話し合ってたんだ。そうしたら僕の提案が可決されちゃって……」
いや、だからなんでお前が大臣にまでいけるんだ?
「俺が推した。トガリの頭のキレっぷりはこの国の食料危機を救うに値するぞってな」
マ ジ か よ。
つーか、反対する奴はいなかったのか?
「ああ、そりゃいたさ。獣人のコックにそんな大役務まるかってほざいてた側近のジジイが何人かな」
あとで聞いた話だが、そいつら全員ラザトが裏で脅迫して賛成票にさせたんだとか。全く凶悪極まりない奴だな。これが職務濫用っていうのかな。
「そういうワケだ。これからは俺はともかく、トガリにも逆らうことは一切できないからな。言うまでもなくラッシュ、殴ったりでもしたら即座に首が飛ぶから覚悟しとけ」
おそらく冗談半分だとは思うが……ラザトが真顔でこう言い切ると全然そうは思えねえ。
「分かってくれるかな、みんな。頼みの王様も今は病の床で、国政自体が危機に陥ってる。だからこそラザト親方……いや、ラザト近衛師団長は僕の策を推し進めてくれたんだ。そしてそれにはラッシュ、そしてみんなの戦士としての力が必要だ。僕には無くてみんなにはそれがある。それを信じてお願いしたいんだ!」
「わかったぜトガリ。んでもって報酬は?」
「……え?」
「いや、依頼するにはそれ相応のカネが必要だってことは分かってンだ……ろって痛ええええ!」
「あとで考えてやるよ、バカ犬は黙って大臣の言うことに従え!」
ラザトに一発殴られた。覚えてろよこのクソ師団長!