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看板

「今の見た?」

 隣に寄り添って歩く彼女が訊いてきた。
 彼女とは付き合い始めてまだ間もない。

「うん、見た」

 路地裏の雑居ビル。

 その薄汚れた壁に掛けられていた、ところどころサビの浮いた金属製の看板のことだろう。俺も目にしていた。

「なに……教えてくれるんだろうね?」

 彼女はなぜか顔を紅潮させ、俺の耳元で囁く。

「ん? 書いてあったとおりでしょ?」

 俺は答える。なにを疑問に思っているのだろう。

「ふうん。やっぱりあれかな、経験の浅い人に向けていろいろと教えてくれるんだろうね」

 小さな手で口元を覆いながら、彼女はさらに小声になる。

「そりゃあそうでしょ。『教室』なんだから」

 分かりきっているだろうに。

「――わたし、ちょっと(かよ)ってみたいかも」

 彼女はポツリと呟いた。

「え? 興味あるの?」

 あんなものに関心があるとは意外だった。

「うん。だって、あなたをもっと喜ばせたいし」

 ……まあ、俺も別に嫌いってわけではないのだけれど。

「体験教室とかはないのかな? 『おとこ()教室』って」

「『おこと()教室』だよっ!」

 俺は頭を抱えながら、天然系女子の彼女に向けて全力のツッコミを入れた。

〈了〉

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