暗い街の中で
ー王様の調子がかなり悪くなってきている。
ルースからそう聞かされたのは、家に戻ってすぐだった。
つーか、王様なんていたんだよな。俺はそんなこと全然知らなかったし。
「王様がいて、その息子であるシェルニ王子とエセリア姫がいるのです。それは分かりますよね?」
ルースにそう説明されてようやく納得。忘れてた。王様の奥さん殺されて、王様も重傷負わされたのがパデイラだったっけ。
「ラッシュ、自分の行った場所も忘れたとか?」
なんてトガリが苦笑いしながらからかうモンだから、とりあえず二人とも殴っておいた。
「なんで僕まで殴るんですかぁぁぁ!」
うるさい。よく分からないけど同罪って事で。
……ところで。
なんで街がこれほどまでに静まり返っちまってるんだ?
俺たちがバクアから帰った時からそうなっていたし。
王様が病気になるとみんな騒がなくなるのだろうか?
「そのとおり。街のみんなも自粛してるってことさ」
そうルースは答えてくれたんだけど……俺としてはいまいち解せない。
「愛されてるんだよ王様は。だから喜びも悲しみもみんなで分かち合うってわけ」
例を挙げてみる。
もし、チビが大病で明日をもしれない生命だったとして、親である俺は毎日酒飲んでバカ騒ぎできるか?
トガリの説明にようやく納得した。なるほどな。王様はつまりリオネングの親方みたいな存在なのか。
そんなことがあってか、パチャとナウヴェル、それに双子をお祝いするパーティも必然的に無かったことにされた。実はフィンの結婚パーティも兼ねていたのだが、しょうがない。
で、さらに。
ラザトもいなかったことに俺たちはようやく気づいた。いつもなら食堂の奥で飲んだくれているのに、その姿が見当たらないんだ……ついに死んだのか?
「親父、復職の話を持ちかけられたんだって」
裏庭でパチャと剣の稽古をしていたフィンが戻ってくるなりそう話してくれた。
「フクショク? 誰の服を作るんだ?」
「違うよ、そっちの服じゃなくてまた仕事に就くってことさ。今回の王様の病気のこともあって、この国の要職にスカウトされたらしいよ」
なるほど。しかしラザトがそうなっちまったら……
「そうなると、親父を殺すのはちょっと無理っぽいよな……」
「ちょっと待てフィン、お前実の親父を殺す気でいたのか!?」
パチャがフィンの一言にえらく激昂した。なんなんだこいつ。
「だから強くなりたかったんだよ、悪いかパチャ」
「いいも悪いもねえ! てめえ実の親に刃向ける気か?」
「とっくにこの前やったよ。逆に殴られちゃっだけどな」
「っざけんなこの親不孝者!!」
と、壮絶な夫婦喧嘩が幕を開けた。別に俺は止める気はない。ヤバくならない限りはな。
しかし……街に活気がないと、ここまで退屈だとは思わなかった。
「またチビちゃんと学校に行けばいいじゃない。ここ最近ずっと休んでたし」
そうトガリに言われてもなあ……と、あいつの出してくれた泥の上澄みみたいな味のするコーヒーを一口すすりながら、俺はうんざりしていた。