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再開、そして

タージアと双子を乗せてもう激ヤバだし、俺も久々に船に揺られ……って、そういや、寝込むくらいにまでひどかった船酔いが全然しなかったことに、俺はようやく気がついた。
「それが慣れなんだよ」ってルースは話してくれたけど、そんなモンなのか? つまり気にしないってことが最善の乗り越え方だったのか……まあいいや。潮風が心地いいしな。
「ラッシュついに三人の子持ちになっちゃったのかあ」
「似合ってるぞ」
「ラッシュさんってまだ子供いるんですか?」
女性陣から三者三様の言葉が飛んできた。どーやって答えりゃいいんだか……俺は胸の中ですやすやと眠っていた双子を抱え、途方に暮れてしまった。
……………………
………………
…………
耳の奥でたくさんの声、いや歓声が聞こえてくる。
いつの間にか俺は眠ってしまってたみたいで、目を開けるともうそこは懐かしの……いや、懐かしいのか? あの港町バクアに着いていた。
案の定、全員完膚なきまで叩きのめしてやっちまったから、港の男たちは俺のことを恐れた目で見つめている。
「周りの連中みーんなケガ人だけど、これ一人でボコボコにしちゃったんですか?」
と、気持ち悪いくらい俺に寄り添うパチャとかいう女エッザール。なんつーか、ここまでこられると正直ウザいっつーか。
「ああ、俺を怒らせるとこうなっちまうって見本だ」
「やっぱすごいっすよラッシュさん……あ!!」
突然変な声をあげたかと思ったら、そこには……
アスティにフィンにエッザール。そして隣にはチビ!

「おとうたん!!!」
俺の胸に飛び込んでずっと泣きじゃくってた。もうこいつの身体が干からびるんじゃねーかと思うくらい。
そして俺も……すまん、ちょっと泣きそうになった。
そうだ、パデイラの地下神殿で誰かに乗り移られて変になった時以来だし。もうずっと目が覚めないのかと心配してたんだからなこの!

しかしなぜこいつらがここに……?
「す、素敵な奇跡ですよね……ぐすっ、これもまた……ひっく、運命のめぐりあわせなので……ううっ」
俺とチビの姿をみて感極まったエッザールがもらい泣きしながら俺に言ってきた。いやそんなことで泣くか普通?
「俺たちもいろいろあったんだよ、あいつと結婚させられちゃったり」
フィン……なんか以前と比べていい顔つきになった感じがする。もしかしてあのパチャとかいう女と結婚しちゃったからか? いや俺も以前結婚されたことあったけど。
それにアスティまで。
「お久しぶりです……いやー、すごい大所帯になっちゃいましたね」
ああ、こいつにもちゃんと紹介しておかないとな。なんたって俺のファン(以下略)なんだから。

そうだ、この三人にまだ島から来た新しい仲間を紹介してなかったんだ。
そう思った矢先、俺たちの乗ってきた船の周りが突然ざわつき始めた。あの爺さんもずっと眠りこけていたんだっけ。
ゆっくりとした動きからは想像もできないくらいの、ズン! とした地響き。天然の鎧に包まれたその巨体。

「な……!?」

最初は、その初めて見る巨躯にただただ呆然としているのかなと思っていた。

だが違った。エッザールだけは。

まだナウヴェルの名前なんて話してなかったのに。
けどそれじゃなかった。あいつの口は確かにこう言ってたんだ。

「ワグネル……師」と。

エッザールが唐突に「ワグネル師」って言うもんだから俺も焦った。
「え、なんであの爺さんが? 名前はナウヴェルだぞ」
しかしなおもエッザールは「ナウヴェル……ならばやはり」とか驚きの目をして大粒の汗を流して。なんか変だぞこいつ。傷んだ魚でも食ったか?

さて、と。ここに居続けたところでいいことあるわけでもなし。ってなわけで俺たちは早々にバクアを発つことにした。ジールとマティエは理事長となんか話すことがあるらしくもうちょっとここに残るって話だ。ルースは言わずもがな。せっかく許嫁と再会できたんだしな。
イファーたち双子とタージア。そしてナウヴェルを伴って、俺たちはエッザールの馬車で帰路に着くこととなった。
……とは言うものの、この巨大な爺さん、案の定スピードが遅いんだよな。せっかくの馬も速度が出せず。おそらく我が家に戻れるのは倍の日数かかるんではないか……と、アスティは苦笑いしながら俺に話してくれた。
「いいんじゃないかな。お互い土産話の交換もできるし」
そうだな。フィンの言うとおりかもしれない。
俺はパデイラで異業のバケモノと出会った時のこと、そしてバクアで無理矢理カミサマにさせられちまった話。
フィンたちはもちろん、エッザールの故郷のことだ。
「なんでこんなのと結婚しちまったんだ?」
「話すにしてもちょっと……複雑な事情があって」
後からこっそりアスティに聞いたんだが、ますます意味が分からなくなっちまった。つーかそんなの親父に説明できるのか?
「しかしそのバケモノとチビちゃんの謎の憑依といい、謎は深まるばかりですね」
「そうなんです。私の身体も妙な反応してしまいましたし、パデイラの地下神殿にはなにか大きな秘密が隠されているのかもしれません。けどもう……」
ああ。エッザールたちにも見せてやりたかったな。あの、身体中が恐怖で総毛立ったほどのバケモノを。

満天の星空を屋根に、俺はチビと双子とタージアにしがみつかれながら眠りについた。
四方八方から身体の毛を引っ張られるのは正直痛いんだが……我慢我慢。

そしてエッザールはというと……やはり。離れたところでナウヴェルと何か話しているみたいだ。
けど、あの時口にしてたワグネルって、俺の斧を創ってくれた刀鍛冶のことだろ? それが何故あの爺さんと関係があるんだか? 俺には全く見当がつかなかった。
なにより、あんなぶっとい手の指で、繊細なデザインした刀なんか作れるわけねーし。

数日後に追いついてきたジール達と合流し、俺たち大家族はトラブルもなく、ようやくリオネングへと着くことができた。
……のだが、なんか様子がおかしなことに気がついた。いや、それを察したのはルースなんだが。
「外からいつも聞こえてくる活気……全然聞こえなくって。それに城門に国旗も掲げられてないし」
「もしや……いや、そんなことは」マティエがごクリと生唾を飲み込んだ。えらく真剣な顔をしながら。
そう、リオネングのお偉いさんと通じてるのはこの二人だけ。ってことは、なんか重大な事件とかでもあったってことか?

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