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11.意外性ばかり追い過ぎて無難さが損なわれてはいけない。

そして迎えた豪雁撫黎(ごうがんぶれい)榛勃佐(ばるぼっさ)生誕祭当日。
港区の豪邸、榛勃佐記念館と呼ばれる場所。現代のパルテノン神殿かと見紛うほどの荘厳さ。東京ドームが二、三個丸ごと収まりそうかという全長に、豪華絢爛な装飾が外装から散りばめられている。しかし中央部に大仏以上にどでかい自分の胸像を飾っているせいで全てが台無しに。
周囲は人々でごった返している。コミックマーケットの待機列くらいかと思えるほどの息苦しさ。ほとんどがミーハーとマスコミで、出入りする著名人を一目見ようと押しかけて来た輩だ。上空には報道のヘリがいくつも飛び交っている。

ブゥゥゥン
キキィィィ
正面に黒いリムジンが何台も停まり、次から次へと量産型おじさんが降りてくる。

「っきゃぁぁぁーーー!豪皇院グループの役員連中よぉぉぉーーー!」
「うわぁ凄い、見るからにお金持ってそうな面構え!すっごくどうでもいいわぁ!」
「そうよそうよ、若いイケメンか渋いイケオジ、胸のデカい女以外は見たくないんじゃぁぁぁ!!!引っ込めぇぇぇ!!!」
「抱かせろぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!!」

ブゥゥゥン
キキィィィ
何台もの大型のバスが停まる。中からよくメディアで見る芸能人がぞろぞろと。俳優、アナウンサー、芸人、アイドル、大物動画配信者など雨あられ。

「っっっきぃぃぃいいいいいいいいいええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!イケメンだっわぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!いっけなぁぁぁああああああい!!!!濡れちゃううううううううううううううううううう!!!!!!」
「子門真人に堺雅人よぉぉぉおおおおおおお!!!!マサマサが続いてるわぁぁぁああああああ!!!!偶然ねぇぇぇええええええ!!!!!」
「それにそれにぃ、清原和博に、ピエール瀧に、宮迫博之に、徳井義実に、渡部建に、櫻井孝宏に、坂本勇人に、松本人志だぁぁぁぁああああああああ!!!!!世間を騒がせた奴らが一堂に会しているぅぅぅうううううううう!!!!!でももう何したかも忘れかかっているぅぅぅぅううううううう!!!!!もういいよどうでもぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!ちょくちょく俺らの前に出てきてエンタメしてくれればぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!もう世間はあんたらに構ってやる暇はありませぇぇぇぇええええええええええええん!!!!!まぁ出てきたら出てきたで叩くけどなぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!世間ってホント便利ねぇぇぇぇええええええ!!!!!!」
「抱ぁっかぁっせぇっるるるるぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああ!!!!!」

ワアアアアアアアアア
キャアアアアアアアア

続々と中に入っていく有名人たちにギャラリーは最高潮。
そんな中、

ブォォォオオオン
ギャリィィィイイイイン

ギャラリーに構わず一際荒っぽい運転で正面につけたのは、装甲車数台。

ガチャ
ザッザッザッ

治安及び勇壮、現着。

「おや?おやおやおやおやぁぁぁ???あれはあれはあれは、東京治安維持機構の方々も到着されたのではないでしょうかぁぁぁ???!!!それにあれは、特攻勇壮部隊の方々ですなぁぁぁ???!!!いやぁ流石は豪雁撫黎会長!その名に恥じぬ傲慢さで、日本最強の部隊までも動かしておりますぅぅぅ!!!」

ババババババ
一台の報道ヘリ、リポーターの海洩綿之介(かいせつめんのすけ)海洩綿太郎(かいせつめんたろう)の父。

「今までもテロや暴漢に見舞われてきたこの生誕祭ですがぁ、それも大事になる前にいつも治安の方々によって制圧!問題無く生誕祭を執り行うことができました!今回もきっと大丈夫でしょう!あ、でも、懸賞金がかかってるんだっけ?変なサイトで?まぁいいや、勇壮もいるんだし、何事も無いでしょうきっと必ずいやしもはや!さぁお茶の間の皆さんもご一緒に、豪雁撫黎会長のご生誕を祝いましょぉぉぉおおおおお!!!!もちろんこの局も豪雁撫黎会長の傘下の傘下の傘下でございますからぁぁぁぁああああああ!!!!!良いようにしか報道しませんからぁぁぁぁあああああ!!!!!偏向報道上等ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!!それがマスゴミの力だぁぁぁああああああああああああああああああああ!!!!!!ごぉうがぁんぶれぇい、ぶぁぁぁぁあああああああんざぁぁぁぁあああああああああああああああああいいああああああああああああ!!!!!!給料ぉぉぉ、上げてくださぁぁぁぁあああああああああああああいい!!!!!!」
「勇壮の隊長よぉぉぉ!!!始めて見たぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「きゃああああああああ!!!!噂で聞くよりもくわぁぁぁっっっこぉぉぉいいいいいいいいいいいいいいいいいいいああああああ!!!!!!」
「武器いっぱい持ってるぅぅぅぅうううううううううううう!!!!!!厨二くっせぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!!!!味するほどくっせぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええああああああ!!!!!」
「銃刀法どぉぉぉぉおおおおおおおおおなっっってえええええええんんのよぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおああああああああああ!!!!!!!」

ギャラリーに目もくれずさっさと歩く東宮寺。

「かっこいいですってよ、良かったですね。」
「何も良くない。何だって毎年毎年こんなクソくだらんイベントに駆り出されんといかんのだ。」
「派手好きなあのおっさんのためにも、ちょっとは居てあげないと格好つきませんから。上層部とズブズブなんですから豪皇院は。」
「何を考えてるんだあの石頭ども。」
「何も考えてないんでしょ、石頭だから。」
「帰っていいか?」
「ダメですって。辛抱してください。」
「むぅ。」

東宮寺はスマホを取り出し、幼女を監護して心を落ち着ける。
そんな治安の警備の奥で、一般参加希望者が列を成す。新型iPhoneやゲームハードを狙う転売ヤーのごとく長い長い列を作っている。皆んな玉の輿を狙う目ざとい若き雌獅子。婚活会場と勘違いする輩もちらほら。皆思いつく限りの色気と華麗さを発揮して臨む。だが全員が全員通されるわけではない。
列の先頭、受付にて。警備員と執事の一団が一人一人審査を行っている。

「執事長、この人はどうですか?結構上物かと思いますが。」
「むむ?むむむむむむむむむむむ、むぅぅぅううううううううううううんん????」

執事長と呼ばれるその男は、ピッカピカの黒髪をスネ夫もどきのようにギザギザに固め、ぎょろ目にモノクルをかけている。鼻が某カイジ漫画くらい高く、ちょび髭を蓄えている。パリッとしたスーツに革靴。白手袋を添えて、いかにも執事らしい執事と言える風貌である。
彼の前に差し出されたのは、一人の女性。白石麻衣と綾瀬はるかを足して二で割ったり割らなかったりするような顔面に、そこそこのスタイルで、ピンクのドレスを身に纏っている。パーティ参加者としては悪くはないと思うのだが。

「んんんんんんんんんんんんんんんんんんん???????」

ものっすごく顔を近づけ、上から下までジロジロ見る。

んふぅー、んふぅー
鼻息を荒くしつつどんどん顔を近づけ、

むんず
高い鼻が女性の胸に刺さる。

「あ、あの…近い…」
「近いですとぉぉぉぉおおおおおおおおおおおんおんおんおおおおおんおんおおおおおおおおおおお??????今私はぁ、大旦那様の目に映るレディとして相応しいかどうかをぉ、これまた真剣に見極めているのですぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおお??????」

パッ
顔を離す。

「良く、ない。」
「へ?」
「良くない、と言ってりゅぅぅぅぅぅううううううううううううううううううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

ガガッ
ビリビリビリビリィ

「きゃぁぁぁーーー???!!!」

女性の衣服を引っ掴んでビリビリに破き去った。衆目の面前で全裸になった女性は羞恥のあまりうずくまる。

もにゅ、もにゅ

「うぅむ、やはり、このレートのレディではおパンティの素材もよろしくないですなぁ。いざという時にこれでは、皆皆様の男魂を萎えさせてしまいかねませんねぇ。これはいけない。」

女性の下着を自分の歯と舌でテイスティングしながら呟く。

ぺっ
下着を吐き出し、女性の方を向く。

「いけないいけない、いっけませぬぞぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああ!!!!!」

女性に勢い良く襲い掛かる。

「きゃぁぁぁああああああ!!!!」

シュピピピピッ、ピピッ
バァァァァアアアアン

目にも止まらぬ早業。

「ああああ…あぁ、あれ?え?」

気付いた時には、彼女は純白のドレスに包まれており、ティアラまで頭に飾られていた。もちろん下着も華やかなのを装備させてある。

「あなた自身の素質は申し分ございませんが、しかしその飾り方はご存じないようで。それはサービスいたしますので、素敵な夜をお過ごしください、ね。」
「は、はい…」
「通せ!」
「イエッサ!ささ、こちらへ。」

警備員に促され、生まれ変わった女性が中へと進んでいった。
素質をきちんと判断し、足りない点があれば出来る範囲で補ってやり、送り出す。高貴な存在に仕える一流の仕事振りは、常人の理解を越えているようだ。

「それがこの私、豪雁撫黎本家執事長、セバスフートベル・デラデラアッコイの役目たるや。まだまだお芋の香りがするレディはたっくさんいますからね!急ぎますよぉ!次ぃ!」
「「「「「はい!」」」」」

こんな感じで厳しくも優しい審査が続く。
そんな審査を遠目に見つめる、とある一行。

「騒々しいですねぇ。ただブスかどうかを見てるだけじゃないっぽいですよぉ。」
「何をそんなに拘るんだか。大して変わんないところに無駄に労力使っちゃって。呆れるったらありゃしない。」

ヒナとソート。ヒナは昨日仕立ててもらった通りの装いをして、準備バッチリだ。ソートは目立たないように多くの機能を切り捨て、スマホに擬態できるほどの小型ドローンに切り替えて追従している。

「そもそも私達、通過できるんでしょうか。できなかったらそこで終わりですよね?」
「まぁそうだけど、多分大丈夫でしょ。前の通過してる人達を見るに、まぁ滅茶苦茶綺麗どころって訳でもなさそうだし。ある程度の容姿が担保されてればいけそうだね。だからヒナさんは大丈夫、自信持ちなよ。」
「なぁんだ、私ほど容姿端麗美辞麗句な必要は無かったんですね。気張って損したぁ。」
「そこまで自信あったの?あと美辞麗句ってそんな意味じゃないと思うよ。」
「それに、もし私がダメでも、もう一人、いますからぁ。」
「あぁそうだね、いたね、もう一人。」

くるーりぃ
ゆっっっくり振り返る。そこには、とても言葉では形容しがたい、少女のような何かがいた。
白髪のダブルツインテールで、ゴスロリ。全体的なイメージはそれ。黒のリボンで二つのツインテールが作られており、艶々の髪が真っ直ぐ垂れている。ウィッグだが。肌は白く、目元はつけまつげとマスカラでけばけばしい。唇にはより紫に近いリップが塗りたくられている。喉仏を隠すための長い襟とチョーカー、肩幅を隠すためのフリフリのレースとリボンの装飾、腕の筋肉を隠すためのアームカバーと黒手袋、脚の筋肉を隠すための黒タイツと大きく膨らんだスカート、下着はどうなっているのだろうか。胸部分には胸筋を覆ってさらなる膨らみを出すためのパッドが入っている。一見するとDカップくらいはある。靴はそれ以上身長を出さないためのパンプス。完璧。
ざっくりとした見た目は、ちょっと身長の高い地雷系。顔つきは想像の五倍ほど可憐な少女らしく見える。だがその目つきはあまりに鋭く、紅い瞳が強く滲む。ギザ歯を食いしばり腕を組んで仁王立ちするその姿からは、話しかけんじゃあねえジロジロ見んなあ殺すぞおオーラがプンプン溢れ出ており、周囲に好奇の目を許さない。ただ二人を除いて。

「…何だあよ。」

紫の唇から不機嫌な言の葉が漏れる。そして思い切り睨まれるが、気にしない。それ以上にこの状況が面白過ぎる故。

「何でもないですよぉ。それよりそんなしかっめつらしてたら落とされちゃいますよぉ。ほぉら社長、じゃないサカ子ちゃぁん、スマイルスマイルゥ。」
「そおんな気分になれるわっきゃあねえええだろおがあああい。こおんなふっざけたあ恰好させやがってえからにい。あいつらあぜっっってえええ許さねえええ…」

脳裏にスナック「Burn Knuckle」の面々が浮かぶ。昨日あれだけ大笑いされたのだ。サカにとっては思い浮かべただけでも腹立たしい。

「そんなこと言わないでさぁ。あの人達も真剣にやってくれたんだから、感謝しないとっ…ぶふっ。」

ソートが笑いを堪える。昨日散々見てデータにも保存した姿だが、まだ慣れない。直視して会話しようとするとどうしても失笑を禁じえない。

「いいいーいいかげえええん、笑あうんじゃねえええ。ぶっ殺されてえええのかあああ???」
「ごめんごめんて。わざとじゃないんだって…ふっ。」

ビキッ
サカのこめかみが疼く。

「まぁまぁそんな怖い顔しないでぇ。声も低いままじゃダメじゃないですかぁ?無理してでも高い声で喋った方が、いいんじゃあ、ないっ、ですっ、かぁぁぁぁぁああああああ????ほらほら裏声で、『サカ子ですぅ』って、ほらぁぁぁ????」

うっざい顔でサカを舐め腐るヒナ。

ぐぐっ
ビッシイイイィィィ
サカが小指で優しく、デコピンを背中に喰らわす。

「ーーーーーー???!!!っっっっっっっっぃぃぃぃぃいいいいいいいいいっっっっったぁぁぁぁぁぁぁああああああああああいいいいいいいいい?????!!!!!」
「でっけえええ声出すんじゃあねえやあい。怪しまれえんだあろおおおがあああ。」
「まぁハスキーな声ってことで、そのままでも問題無いと思うよ、僕は。僕はね。」
「ひぃぃぃ、ひぃぃぃいいいいい!痛い、いっっったぁぁぁああああい!ソートさん、赤くなってませんかぁぁぁぁあああああ???!!!」

ぴょんこぴょんこ
飛び跳ねながらしきりに背中を擦るヒナ。

「服の上だから分かんないね。でも多分内出血とかしてると思うよ。」
「もぉぉぉおおおお!!!すぅぅぅうううーーーぐぅぅぅ暴力に頼るんだからぁぁぁぁああああああ!!!!弱い者イジメして楽しいですかぁぁぁぁああああああ???!!!」
「おおおーう。ちょちょちょおいっとおはあスウッとしたぜえええい。」
「もぉぉぉおおおおおお!!!!!」

やんややんやしていると、

ズッ
ズウウウウウウウウウ

「「「「「「「「「「?!」」」」」」」」」」

辺り全員の背筋に悪寒が走る。

ケッ

「んぬうあああーあにいはりきってえんだかあ。おフアックのおん山のタイショオーがあああ。」

東宮寺の視線が一時参加者に注がれ、戻る。

「どうしたんですか隊長。殺気なんか出して。何かありました?」
「いや?参加者の中にか弱い幼女がいた気がしたが…気のせいだったようだ。」
「雰囲気がかっこいいから許されてますけど、普通にキッショイロリコンですからね?一般人にバレてないのギリですから、自重してくださいよ。」
「…あぁ。」
「あぁ、じゃなくて。」

東宮寺はもう一度参加者の列に目をやり、その場を離れた。

「何だったんでしょうかぁ。あの隊長さんですよね?」
「もしかして、サカがいるのバレた?」
「いいいんやあああ、バレてえはあねえええいぜえええい。いっちおおお、こっちにもガン飛ばしたあああだけだろおおおなあああ。やり返してやっちゃあおおおとお思ったがあああ、やんめてえやったあぜえええ。こおんなとこをお見られちゃあああ、ほんっとおおおに死ねるうからあああなあああ。」
「本当にヒヤヒヤするよ。上手くいくといいけど。」

列の先頭にて。

「いかんいかぁぁぁぁあああああん!!!!!こぉぉぉおおおおおんなダサァァァアアアアアイ熊さんパンティを履いていてはぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!こっちの白レースに替えなさぁぁぁぁああああああい!!!!!ふんぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃいいいいいい!!!!!」
「いやぁぁぁぁああああですぅぅぅううううう!!!」

ビヨォォォォオオオオオオオン
セバスがある女性のパンツを着替えさせようと端を掴んで引っ張るが、女性はそれに抗っている。なかなか断ち切れずに伸びる伸びる。どうやら熊さんがプリントされた毛糸のパンティのようだ。

「これが私の勝負下着なんですぅぅぅぅううううううう!!!!!ひいおばあちゃんが編んでくれたぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!これを着けて今日こそ若社長を引っ掛けるって誓ったんです!ひいおばあちゃんにぃぃぃぃいいいいいいいいいいい!!!!!」

ビヨォォォォオオ
熊さんがはち切れんばかりに横に広げられ、原形を全く留めていない。実に苦しそう。

「そんな思い出が何になりますかぁぁぁぁああああああ!!!!!自分のコンディションを悪くしてでも背負うことはありませぇぇぇええええええええええん!!!!諦めなさぁぁぁぁああああああああい!!!!!」
「嫌ですぅぅぅううううううううううう!!!!!ひいおばあちゃんのことを裏切るくらいなら、ここで散りますぅぅぅぅうううううううううう!!!!!」

ビヨォォォォ
ビッ、ビシビシィ
段々毛糸がほつれてくる。

「あぁっ、熊さんが!」
「そんな!」

ギャラリーにも緊張が走る。

「くぅぅぅううううううう!!!!!」
「ひいおばあちゃあああああん!!!!!ごめんなさああああああい!!!!!絵里奈は未婚で生涯を終えますぅぅぅうううううううううううう!!!!!!」

ビシビシビシビシッ
熊さんの顔にも亀裂が入る。

「ああああぁぁぁぁあああ!!!」
「うわぁぁぁぁあああああん!!!!」
「~~~~~んんんああああああああっっっっ!!!!!」

パッ
セバスが手を放した。そして裁縫道具をどこからか取り出し、

シュバババババッ
毛糸のパンティに十分な補修を施した。新品のような輝きを放ち、これには熊さんもにっこり。

「え…?許して、くれるんですか…?」

女性が涙目でセバスを見る。

「えぇ、私の負けです。亡き曾祖母への思い、グラシアス。大事になさってください。その純粋な気持ちがあれば、きっと素敵な殿方を捕まえられるでしょう。」
「あ、ありがとうございます!ひいおばあちゃんまだ生きてますけど!絶対に若くて高身長イケメンマルチリンガル社長を捕まえて婚姻まで持っていきます!」
「そうだぁ!あんたならいけるぞぉ!」
「頑張れぇ!」
「はい!頑張りまぁす!」

パチパチパチパチ
温かく盛大な拍手に送られながら中へ入って行った。

ずびっ、ずびびびぃっ
ヒナも思わず目頭が熱くなり、鼻をすする。

「分かりますよぉ、私もひいおばあちゃんによく遊んでもらいましたから。大事にしちゃいますよね、家族の絆って。へへっ。」
「感動要素皆無なんだけど。普通に成人女性がドレスの下に熊さんパンツダメでしょ、どんな時も。」
「どおおおおーーーでもおいいいわあああいいい。さっさとおしろよなああ。後ろおがパアンパアンシコイシイコオつっかあえてえんだからあああよおおお。」

イライラを抱えながら順番を待つ。
一時間半後。

イイイイーーーライライライライライライライララララライライ
ブッシュゥゥゥウウウウウウ
ピィィィィイイイイイイ

「ぬうううあああああああああああんでえええええこおおおおおおんなあああああにい待ったされえにゃああああーああああいっかあああんのだあああああああ?????デイズニイールアンダアアアじゃああああーああるめえいしいいい?????舐あああめてええええええのかあああああああああああ????????」

サカのイライラがピークに達し、辺りの空気が沸騰しているかのような迫力を醸し出す。

「社長ぉ、落ち着いてくださいって!熱っ、あっつぅぅぅうううう???!!!なんか熱ぅい!雰囲気が熱いぃぃぃぃいいいいい!!!!!」
「どうどう、もう目の前、あとちょっとだから、もう少しの辛抱だからね。その熱気殺気引っ込めて、警戒されちゃうよ。」
「クッッッソオオオオオオがああああああ。」

シュゥゥゥ
なんとか猛る殺気を引っ込める。
ようやく列の先頭へ。審査が始まる。

「次ぃ!」
「ほら社長ぉ、やっとですよぉ。疲れましたよねぇ、よちよち。」
「その口塞いでやらんかあああああい?」
「ほらぺちゃくちゃしないの。これからは小声でね。」

ソートがヒナの荷物に紛れる。

ザッザッ
セバスの前に並ぶ。

「全くどれもこれも、素質自体は十分なのですが、今一つ味というかパンチが無いのばかりですねぇ。目も腹もアソコも肥えたお客様には、もはや普通のレディではご満足いただけないというのに………お、お、お、お、おやぁ?おやおやおや、おんやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああっっっ???!!!」

ズカズカズカ
サカの目の前に来て、やはり顔をものすんごく近づけてくる。

「ちっけえよお馬鹿があああ。」

デコッピィィィイイイン

「ぶげっらぁぁぁああああ???!!!」

衝撃で後ろに倒れ込むセバス。

「執事長ぉぉぉ?!おのれぇ、何をするぅ!」

警備員に囲まれる。

(ちょっと社長ぉ、マズいですって!大人しくしてないと!)
(うううんるううううせえええよおおおおお。たっだあでえさあえええインラインラぶちこいてえるんのにいいい、クッソキモキモ顔面ちっかづけられちゃあーあああ、がまあんがんまんのお、おげんかあいがあああ来ちまうよおおお。)
(でもそこをなんとか。五億のためにもさ。)

「いぃぃぃいいいい!!!!いい!お前達!下がりなさい!」

セバスが真っ赤な額を擦りながら立ち上がる。

「いや、しかし…」
「下がれ!」

ススッ
警備員が退く。

「いい、実にいい!アンビシャス!その跳ねっ返りの強さ、ポテンシャル◎!その強く固く熱く逞しいものを嬲るように折る時が、とてつもなく堪らんのですからぁぁぁあああああ????」

(そういうもんなんですか?今時の女子って可愛いだけじゃダメなんです?嫌な世の中になりましたねぇ。)
(そんなことないと思うけど、まぁここに来る連中が普通の女性じゃ満足しなさそうなのは同意だね。)
(ダアッッッリイイイイイ。さっさあとおしろおおおい。)

セバスはサカの周りをくるくる回る。もちろん鼻が肌に触れるくらい至近距離で。

シュピッ

「ふんむぅ、服の素材も荒っぽいですが悪くないですねぇ。むしろ雰囲気に合っていますかな。」

シュピピッ

「髪質も良いですねぇ、実に見事なキューティクル。ちょっと不自然なくらい綺麗ですが、まぁ良しとしましょう。」
(ただのウィッグなのにね。)
(ですね、意外と節穴ですかね。)

シュピピピッ

「何よりその目付き!見るもの全てを射殺さんと言わんばかり!執事歴三十年余の私でも金玉が縮み上がりそうなその迫力!この源はいったい何なのかぁ???」

ビキビキビキッ

(殺すううう、ぶっ殺してえええええええ。)

サカは黙って仁王立ちしていたが、もはや殺気が抑え切れていない。

(ひええええ、もう爆発寸前ですよぉぉぉ!さっさと終わってぇぇぇ…)

「むぅぅぅうううう!!!!すんばらしぃぃいいいい!!!!エキゾチックゥ!!!一人の女性とは思えない、まるで生物の頂点に立って見下してくるようなこの威圧!!!!知りたい知りたい調べ尽くしたぁぁぁぁああああああいい!!!!!んふぅ、これは入念に、あそこもどこもそこも、調べないとぉ?あぁ、いっいいいいけませんですぞぉぉぉおおおおおあああああああ?????」

わきわきわきわっきぃ
指をグネグネさせながら、その手をサカの臀部に近づけていく。
が、しかし。

「おおおおい。」

ギリッ
ギリギリギリギリギリィィィイイイ
サカがその手の甲を掴み、思い切り捻る。

「???!!!ぃぃぃいいいいぎぎぃぃいいい、いいいいいいややああああああああああああああ????!!!!」
「死にてえええのおおおんかあああい。」

ミチミチミチィ
そのまま捻じり続け、

ブッチィィイイイイ
手袋ごと皮を捻じ切った。血が滴っている。

「ぅぅぅうううううううううううおおおおおおおおおおおおおあああああああ?????!!!!!」

セバスが手を押えてのたうち回る。

「ちょっとちょっとぉ?!何してるんですかぁ?!いいじゃないですかお尻の一つや二つ!減るもんじゃなし!」
「痴漢する側の台詞だよ、それ。」
「こおおおんなあ恰好おおおしてえるがあなあああ、そこまでえええ気を許しちゃあーあああ、いんねえええぞおおおあ。ぜえええんぶうこいつうのお、じっごおうじっとおくうううったあああやあつだあなあああい。」
「お前らぁぁぁぁあああああ!!!!!覚悟しろぉぉぉおおおおおお!!!!」

ジャカジャカジャカジャキィィイイイン
警備員に銃を突きつけられる。

「私もですかぁぁぁぁああああ???!!!何もしてませんけどぉぉぉぉおおおおお???!!!こいつこいつぅ、こいつだけがやったんですぅぅぅううううう!!!!!私知りませぇぇぇえええええん!!!!」
「ギャアーギャアー言うううなあああい、あっきらめえええろおおおい。」
「あぁ、五億…さようなら…」

ぐっ
警備員が引き金を引こうとした。
その時、

「待たんかぁぁぁぁあああああ!!!」

セバスの鋭い声が。既に手の甲には分厚く包帯が巻いてある。流石一流執事。自分への応急措置も一流である。

「執事長?!お怪我は大丈夫なのですか?!」
「いちいち騒ぐんじゃありません。日本を統べるお方に仕えているのですから、これくらい屁でもありません。」

さすさす
そう言いつつ包帯の上から手の甲を優しく擦る。可愛い。

「でもこれは、流石に…」
「黙れ。我々の目的は何だ?皆様に愉しんでいただけるようなレディをハントすることだ。目の前のこれが、まさにそのアクセントに相応しいと思わんのか?」
「思わないです。」
「黙れ。」

ザッ
今一度サカの前に立つ。今度はちゃんと距離を空けて。

「通っていいのおんかあああ?」
「えぇ、勿論。是非ともエキサイティングな夜にしていただきたい。」
「まっかせろおおおい。わっすれたくともおわっすれられなあい夜をおお届けえーええしちゃあああるぜえええい。」
「よろしくお願いいたします。それではどうぞ。」

セバスに中に入るよう促される。警備員はまだ顔が引きつっているが、気にしない。

「あ、あの~?わ、私は…?」

ヒナがおずおずと手を挙げる。そう言えば審査してもらってない。

「?こんな野暮ったいレディが居ましたかな?おい、こいつはつまみ出せ。」
「「「「「ははっ!」」」」」
「えぇぇぇええええ???!!!ちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉぉおおおおおおおお????!!!!」
「うおおおおおい、こいっつうううあああ、俺ちゃあんのツレだあああい。なんとかあしてえけえんろおおおおおう。」
「あぁ、あなたのお連れ様ですか。ならいいや、通しちゃって。」
「「「「「はぁーい。」」」」」

しっしっ
警備員に虫を払うかのごとく中に追いやられるヒナ。

「うぅぅぅぇぇぇえええええ~~~~ん!!!!なんで私はこんな扱いなんですかぁぁぁああああああ???!!!社長ぉばっかりずるぅぅぅううううういいい!!!!」
「そおおおんりゃあ、おんめえにい魅惑うのお麗しいさあああがラアックウしてえんのおよおおおん。もおおおっとおおお振りまけ振りまけええええええい。」
「確かに男のサカに負けた感あるからね。ちょっと反省した方がいいかもしれないね。」
「何をですかぁぁぁぁああああああ????!!!!皆んな私に冷たくするぅぅぅうううううううう!!!!私は一生懸命やってるのにぃぃぃいいいいいいいい!!!!!どうじでぇぇぇぇぇええええええええええあああああ!!!!!」
「ビイービイービイービイーアうるうっすうえええってえええ。努力があ報われにゃあいことなあんざあ、いんくらでえもおああああんだあろおおおがあああいや。ぐうううぜえんでもお、うんまあくいったあことをお、喜べえええーええよおおおい。」
「うぅ…報われたぁい…ハッピーエンドな人生を今から確約されぁぁぁいぃ…神様ぁ…」
「泣き言言わないの。ほら入るよ。」

一行、審査クリア。豪邸内部に侵入成功。

ワイワイワイ
ガヤガヤガヤ
中はとてつもなく広く、無駄に上下左右に階段で上り下りされる踊り場もいくつもある。至る所で立食パーティやら乱痴気騒ぎやらが繰り広げられているが、とりあえずはメインホールに向かう。

一階、メインホール。
地平線が見えるかと思うほどの広さで、二階と三階まで届くぶち抜きの天井。一軒家ぐらいの大きさがあるシャンデリアに、一ミクロンの隙間も無く敷き詰められたペルシャ絨毯。ダイヤモンド製の榛勃佐胸像。贅沢の極みを尽くした内装の中で盛大なる宴が展開されており、有名人もちらほらと。マスコミも多く、実におシャンティな様がありありと報道されている。

「あぁぁぁあああーーー!!!小野賢章がいますよぉぉぉおおおーーー!!!!声以外もかっこいいいいいいいいいいーーーー!!!!サイン、貰ってもいいですかね、ね???!!!」
「あんまりミーハーしないの。僕ら人殺しに来たんだから、目立っちゃダメだよ。」
「お化粧室はあどこかしらああああん?さっさあとこおんのダリイイイ服う脱ぎ散らかしてえええぜええええい。」
「辛抱してって。段取りがあるんだから。」
「段取りバンドリ何のそのおおおおおお?んなもおんがああああるうんならあ、さあっさあとお言えええい。」
「はいはい。スマホにここの見取り図送ったから確認して。」
「仕事熱心ですねぇ。もうちょっとはしゃいだらどうですかぁ?」
「三次元のイベントに期待するだけ無駄だから。とにかく見てよ。榛勃佐記念館。四階建ての地下二階。小さな町くらいの大きさがあって、中を人が埋め尽くしてる。警備員の数も多いし、滅茶苦茶は出来ないね。」
「たあああああっっっくううう、めんどおおおうごめえん極まりなあああいぜえええい。」
「こんなに広いですけど、その会長さんはどこにいるんですか?」
「例年通りだと、そろそろこのメインホールで開会の挨拶をするはずだよ。」
「なるほど、そこでやっちゃうと。」
「いや、それはキツイかな。人が多過ぎるし広いから、近づく前に足が止まっちゃいそう。サカはバットも何も無いし、この警備の中で確実に仕留められるかというと、ちょっと難しいんじゃない?」
「いいいいんやあああ?できなあいことはあ、ねえええんけえんどおおおお?」
「強がらないでって。最初はおじちゃんの姿を確認しておくだけでいいでしょ。その後、地下二階の資材とかの搬入口まで移動する。美術品なりを運び込んでるところ。ここにあの芸術家ババアの作品に紛れ込ませた麻酔銃とバットがあるから、そこで調達しよう。」
「社長いるなら私の出番は無さそうですけど、まぁ一応持ってましょうか。」
「暴発しないように気を付けてね。それで時間が空いてから、またメインホールでイベント。おじちゃんが自分のコレクションを自慢したり、芸者呼んで出し物したりするんだって。」
「傲慢チキチキやろおおおおがああああ。おんめえええの自己満だけで出し物なんてえええすんじゃあねえええぞおおお?」
「じゃあその出し物の時に?」
「うん、そこからの後の予定は規則性が無くて推察出来なかったし、ここで出てくるのは確実だから、ここしかないかな。上手くステージに近づくか、もしくは隠れておいて、パパッとやっちゃおう。」
「なるほど、じゃあ社長、お願いしますね!」
「はあああいはああああい、わあああったからあにいいい。」

やがて。

バツン
バツバツバツバツバツン
館内中の照明が暗くなり、メインホールのステージが照らし出される。

「ありゃりゃ?」
「始まるね。」
「やあああっとかあい。」
「レディィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイスウウウウウウウウエエエエエエアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンドゥゥゥゥウウウウウウウオオオオオオオオオオオオジィィィイイイイイエエエエエエエエエエントオオオオオオオルウウウウウウウウメエエエエエエエエエエエエアアアアアアアアアアンン(順不同)!!!!!!!今年もこの時期がぁぁぁやぁぁぁぁあああっっってぇぇぇぇえええええええきんまぁぁぁぁあああああああしぃぃぃいいいいいいいいいいいいたぁぁぁぁあああああああああああああああああおおおおおおおお!!!!!!わぁっれぇらぁがぁトップゥ、キングオブキングのぉ、ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおううううぐぅぅぅううううううううううああああああああああああああああんあんあんあんあんぶぶぶぶりんぶぅぅぅうううううううううううううううううるるるるるぅぅぅぅうううううううううううううううえええええええええええええええいいいいいいいんんふぅぅぅううううううううううううううううあああああああああああるるるぅぅぅうううううううううううううぼぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっっっっすぅぅぅうううううううううううううあああああああああくわぁぁぁぁあああああああいいいいいいいいちぃぃぃいいいいいいよぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおんんぬぅぅぅうううううううううううううおおおおおおおお、ああごぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっとぅぅぅぅぅうううううううううううううじぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおううううううううううううううううううううどぅぅぅうううううううううううううううえええええええええええええっっっっっっすぅぅぅぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!あああああああああああ!!!!!あああああああ!!!!!」
「「「「「「「「「「ゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」」」」」」」」」」

ビリビリビリビリビリビリビリィィィイイイイイ
飛んでもない会場からの雄叫びに、会場が、いや港区全域が揺れ動く。

「ひぃぃぃ、うるっさぁい。社長の半人前はありそうですぅ。」

カッカッ
カッ
スポットライトに照らされ、一人の壮年がステージの中央に立つ。
白髪をたっぷり蓄えた髪と髭。だが不潔感は無く、きちんと手入れされた立派な毛並み。額に大きな傷があり、まるで歴戦の兵士のような面立ち。眼光は鋭く鼻も高く、イケオジの部類。

くわわわぁっ
その眼を大きく開き、宣言する。

「今ここに、僕ちんの第六十三回生誕祭の開会を、宣言するぅぅぅうううううううううううううううううううううううう!!!!!」

ちょーん
ただしその身長は八十センチ。二等身くらいしかない。

「「「「「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアア!!!!!!!」」」」」」」」」」

「ち、ちいさっ…間違ってワンちゃんでも来ちゃったのかと思いましたよ。」
「てか胸像わい。明らかに身長足りてないじゃい。盛り過ぎにもほどがあるよ。」
「ちいんちょおーなんてえどおーおおおでもおいいいーいいわあああい。クッソオやろおーおんならあ誰だあろおおおーがあ、ぶっちいかましいてえやるだけえよおおおい。」

開会宣言の後、そのままスピーチに入る。

「…現在日本という国は下り坂にありながら、国民一人一人の危機意識が欠如している。しかしこれは個々の問題ではなく、それを率いる国家首脳陣の責任問題であり、僕ちんから政界に働きかけ、今後…」
「随分立派そうなこと仰ってますけどぉ、身長と一人称のインパクトが強過ぎて何にも頭に入ってきませぇん。」
「見た目と言葉遣いって大事だね。内面の現れとはよく言われるけど、本当にその通り。残念なおじちゃんだね。」
「めんどくっせえええなあああ。もおうこいつでもお、投げてやっかああああああ???」

サカは近くの小皿一枚を取り、

ギュッ
ギュギュギュギュッ
フリスビーを投げるかのごとく振りかぶる。ここからステージまでは大分距離があるにも関わらず。

「ちょっとちょっと何してんの?!ヤバいって、厳しいって!」

しかしそこでちょうど、

「…以上で僕ちんの話終わり!じゃあまた後で!解散!」
「いえ会長、まだまだ解散じゃあないですよぉぉぉおおおおおおお!!!!おんまぁぁぁぇぇぇええええええるうううああああああああああああ!!!!!!まぁだぁまぁだぁまだまだまだまだまだまだまだまだ楽しんでぇぇぇぇぇええええええええええいいいいいぃぃぃぃぃぃっっっっこぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおうううううううずぅぅぅうううううううううえええええええええええええええええあああああああ!!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「ぎょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」

「チイッ、逃げやがあんのお。結構ワアンチャアアアンああるとお思ったあんだあがあなあああ。」

小皿を戻す。

「この距離だし、確実に当てんのは無理でしょ。それで外したら、SPに囲われて奥に引きこもってもう人目に出ないだろうし、チャンスなくなっちゃうって。これで良かったよ。」
「えっと、これでパーティ本格的に始まったんですよね?だったら私、小野賢章にサイン貰いにいってもいいですかぁ???!!!」

どこからか取り出した色紙を持って興奮するヒナ。しかし。

「ダメに決まってるヒナ。次おじちゃんが出てくるまでに準備済ませないと。地下に行くよ。警備員の目をかいくぐってね。」
「やあああっとおこおおおんなあ恰好脱げるわあああい。ん、んあ?てかソートオ、俺ちゃあんの着替えはああああ???」
「あ、それも武器と一緒に美術品に紛れ込ませてあるよ。着替えはそれまで待ってね。」
「はあああああああん???何してえくれちゃあああってえええんのおおお???いっつまでえこおんなあ恰好せんにゃあああならんのだあああい???」
「知らないってもう。だったらなおさら急ごうよ。」
「クッソがあああ。ナアーヒイーさっさあとしろおい。地下に行くぞおおお。」
「えぇぇぇええええええええん???!!!そぉぉぉおおおおおおんなぁぁぁあああああ!!!!!小野賢章がぁぁぁぁあああああ!!!!!子安武人がぁぁぁああああああ!!!!前野智昭にも会いたかったのにぃぃぃいいいいいいい!!!!!音声録音して実際のゲーム音声と比較して声優の普段の音域との違いを楽しみたかったのにぃぃぃぃいいいいい!!!!!」
「厄介ファンは誰も助けないよ。ほら行った行った。」

ずーるずーる
ドレスの裾を引きずられながらヒナもメインホールを後にする。
やっと始まった生誕祭。既にサカが入り込んでいるとは露知らず、表で警備を無駄に続ける東宮寺。豪雁撫黎榛勃佐にはどんな業があり、どんな最期を迎えるのか。
次回に続く。

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