本編
俺は工場建設をサポートするエンジニアである。予定期間は半年で、ハナモゲラ星に単身出張に来ていた。アシスタントから、あ、俺は偉くないのでもちろんただのAIプログラムなんだが、現地には地球人の口に合う食べ物が無いと教えられたので、バー型の固形完全栄養食を半年分持参していた。しかし、硬めの乾パンのような食感に、チョコとフルーツとプレーンの3種類しか味が無い。もう2ヶ月もこんなものしか食べていないので、うんざりしていた。
そんな時帰り道の途中の店がどうしても気になって、店の前で足が止まって動かなくなってしまった。以前から気になっていた看板をバイザーで確認すると「鉄板お好み焼き」と翻訳された。地球の居酒屋風の店だし、入ってみるか。
「へい、いらっしゃい」と、妙に威勢良い店員が出てきた。バイザーで見かけを変換しているため、地球のヤンキーっぽい兄ちゃんに見える。案内された席に鉄板らしきものは無い。メニューを見るが、まともに翻訳ができないようで、かろうじて読めたのが、「本日のおすすめ、もふもふモダン焼き」と「ピロメポポロ握り」だった。検索に出ないピロメポポロは止めた。「もふもふモダン焼き」は検索しても、おなじみの焼きそば入りお好み焼きがヒットするばかりだ。日本語で検索しているので地球のものしか出てこないのだろうか? しかし、現地語はさっぱり分からないし。とりあえず頼んでみよう。
「もふもふモダン焼きとコーラを頼む」
「前払いで5千円になります」
高いな! 届いたコーラは地球の物と同一で問題ない。やがて店員が料理を運んできた。
「暴れるのでご注意下さい」
暴れる?
料理を確認する。見かけも焦げたソースの匂いも、良く知ったモダン焼きそのものだ。バイザーで組成を分析して見るが、炭水化物、蛋白質、他で、人体に有害なものは無い。フォークとナイフで突いてみると、確かにもふもふである。
意を決して、フォークで押さえ、ナイフを突き立てたその瞬間そいつは
「キュイィー!」
と、高い音で鳴き、同時に全体が立ち上がってナイフを刺した所には焼きそばの束が盛り上がり、ナイフを押しのけ、残りの焼きそばは一斉に踊りだした!
「ぎゃああ!」
俺は叫び声を上げ、店から逃げ出した。夢に出てきそうだ。金輪際その辺の店で食ってみようなんて、考えるのは止めだ。残り4ヶ月間、大人しく固形バーを食う覚悟を決めた。