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イルミネーション

「きれい……」

 窓の外を見下ろしながら、彼女は呟いた。

 眼下では、暗闇の中をいくつもの灯りが(またた)いている。

「君の美しさには(かな)わないさ」

 そう言いながら、男は両手に持った二つのグラスの、片方を彼女に手渡した。

 グラスにはまるで血のように真っ赤な液体が注がれている。

「ふうん、その言葉(セリフ)、今まで何人の(ひと)に向けて言ったのかしら」

 彼女は悪戯っぽい微笑みを男に向けた。

「もちろん、今君に向けて言ったのが初めてだよ」

 男は彼女の肩に手を回し、耳元に囁きかける。

「ふふふ、冗談よ。あなたがそんなに器用じゃないことは分かってる」

 彼女はそう答えると、手にしたグラスを掲げた。

()()に」

「そして、僕たちふたりの未来に」

 彼女と男が手にしたグラスを軽く合わせると、まるで天国の鐘のような音が鳴り響いた。

 窓の外、青い星の夜側では、絶え間なく灯りが瞬いている。そのひとつひとつの輝きで、幾百、いや幾千もの命が消えていく……そんな灯りである。

「思いのほか簡単だったわね」

 グラスにひと口つけて、彼女は言った。

「ああ、僕らが手を下すまでもなかった」

 男は目の前にグラスを掲げ、赤い液体越しにその惑星を眺めながら、

「愚かで下劣な先住生物は、勝手に自ら滅んでくれる。ここを見つけた僕たちの大手柄さ」

 と続けた。

「そうね。彼らがひとりもいなくなったら、この美しい地球(ほし)はわたしたちが使わせてもらいましょう」

 移住先の惑星を探し、長い旅を続けてきた二人は、もう一度乾杯してから母星への報告を行った。

〈了〉

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