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炎降る中で

とにかく逃げる。火山の怖さがいまいち分からないけど、この前のパデイラのアレと似たような感じだろう。つまりは遠く離れねえと危険ってことか。

海岸に泊めてある船に詰め込んで出して……と、突然タージアが「島の人とバクアの人と一緒にするのは……」。
そっか。ただですらヤバい間柄だったのに、ここで混ぜちまったら船の中で殺し合いに発展しかねないか。
「我々は避難場所を知っている、あなたたちもそちらへ!」って長老が言ってきたもんだから、まずはバクアの奴らを出港させて、俺らは双子に引っ張られ……

え!? 泳ぐの?
みんな別の海岸から次々と泳いで離れてゆく。
「そうだよ、ここから少し泳いで行った先に弟・の・島・があるの」
双子の言うことを要約すれば、おそらくこの島は兄弟島……つまりは同じ大きさのがあるらしいってわけだけど。

俺、
泳 い だ こ と な い!!

そもそも小さい時に親方に身体洗えって川に放り込まれて以降、水に浸かったって記憶が皆無だ。
あ、いや、ひざから上以上の水の中かな。
実際、息を止めるってことも目を開けるってこともどうやっていいのか……いやできなきゃ死ぬし!
そして、さらに輪をかけてヤバいことが。

ル ー ス が い な い!!

「村に戻っていったよ、本忘れたって」
「そうそう、大事な本!」
双子が矢継ぎ早にそう言った。そっか、パデイラで手に入れた本……こっちで時間ある時に解読しなきゃって。
熱い風を感じて振り返ると、すでに俺たちがきた森のあちこちが炎に包まれている。
「みんな先に行ってろ! 俺はルースを探しに行く!」

泳げるとかそんなのは二の次だ、いまはルースを連れてこないことには。俺は急いで村へと走っていった。

息を吸うと胸の奥がまるで火を付けられたように熱い。それに足下も。焼けた鉄板の上みたいだ。常に走っていないと、まるで足の裏がヤケドしてしまいそうなくらい。
火の粉の雪が降ってきて、視界のあちこちを白でなく赤く染めている。さっきルースが言ってたな……だんだんと溶けた石が地面を埋め尽くして、さらには大きな岩が降ってくるって。
そうなったらもうこの島は最期。人の住めない大地に変わるんだとも話してた。
焼けつきそうな空気の中、俺は力を振り絞ってルースの名前を呼んだ。

……が、パチパチと木々が焼ける音だけ。
ルースがいた部屋をのぞいても誰もいない。だがあいつの愛用のカバンだけはそこになかった、ということは……
すると突然、ズン! ひっくり返るくらいの地響きと共に、瞬時に周りが炎に包まれた。
これが、ルースの話してた大きな岩!?
どうする俺、探すのをやめてみんなの元に帰るか、それとも……
い、いや! ルースを見捨てるなんてことは絶対しねえ! ギリギリまで探すんだ!
そうしているうちに焼けつくような空気が瞬く間に全身を覆ってきた。やべえ、毛まで焦げつきそうだ!
熱い空気はだんだんと黒い煙へと変わってゆき、吸い込むことすら拒絶しそうなほど。
燃える家のあちこちを探し続けていると、一瞬意識が遠のきかけた。なんだこれ、煙を吸い続けていたから……か?

耳の奥で誰かが俺の名前を呼んでいる、そんな気がする。
まさか、ルースか……いやそんな。
汗が止まらない、息が吸えない、歩けない。
このまま……俺は……

意識が消えかかる直前、誰かに持ち上げられたような、ふわりとした感覚に襲われた。
だが、もう俺の身体は動くことすらできなかった。

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