地響き
広場の真ん中に集められていた島民が一斉に立ち上がった。
「バシャニー様だ! 我らの神バシャニー様が助けに来たんだ!」
瞬間、地面を揺るがすほどの声援と足拍子。
「ええいお前ら黙れ!」
側にいた男を殴りつけた奴の顔面に怒りの鉄拳を見舞う。
「どっからでもかかってきやがれ! 戦いの神を怒らすと怖ぇことをテメェらに教えてやる!」
頭に来た。俺たちを、島のみんなを騙すこともそうだったが、それ以上に俺たち獣人を愚弄したことが。
リオネング城の騎士どもにバカにされた時もそうだったが、まだ人間たちの差別意識は健在なんだなって。
悲しいというか、腹が立って仕方がないというか……
途中、角材で後頭部を殴りつけた奴がいたが、武器ごと腕をへし折ってやった。
全然大したことねえ。ルースが言わなけりゃ皆殺しにしていたところだ。なんなら二度と船に乗れない身体にしてやっても構わねえ!
とはいえやっぱり半・殺・し・にするっていうのは面倒くさい。鼻っ柱ブチ折るより首の骨をへし折った方のがどんなに簡単か……ただの殴り合いって俺にとっては苦手なことなのかも。
そんな中、ふらふら逃げ延びた一人が援軍を呼ぼうとしていたが……それは徒労に終わった。
そう、ルースがことごとく昏倒させてくれていたから。
もはや手足の指じゃ数えられないくらいの連中をボコボコにしてやった……が、奴らも血の気の多い性格なのか、鼻血まみれになってもお構いなしに俺に襲いかかってくる。流石海の男。この手の喧嘩慣れしているのかな……なんて頭の隅で感じながら殴る蹴るぶん投げるの繰り返し。
けど……やっぱり一人で殺さず相手するのは厳しくなってきた。
やべえ、息が上がってきた。
ルースやタージアたちは縛られた島民を逃すのに必死だし……この先どうすりゃいいのか。
ズン!!!
その時、地面から……いや、まるで身体の中まで震わすような振動が響いてきた。
島の連中の声援か? と広場を見回して見たが、もう大方逃げ延びたみたいだし。
またドン! と地響きが。だがさっきより力強い。
しばらくすると今度はガタガタと揺れてきたし、なんなんだこりゃ?
ゴゴゴとまるで巨大な馬車が走るような音とともに、風が、そして空気そのものが揺れ始めた。
「この島の真ん中に活火山があるんです! そいつが活動を始めたんだ! 早くここから避難しないと!」
ルースの指差す方向には……高くて真っ赤な山がそびえ立っている。
「なんで真っ赤なんだ?」
「溶岩です! つまり岩が溶けるほどすごい熱が噴き出しているんです! あれが島を埋め尽くすまでにこの島から逃げ出さないと……!」
よく見ると、まるでトガリが鍋を煮立ったまま放置したみたいに山の頂上から溶岩が噴き出してきた。
俺がボコボコにした奴らも無理やり起こして、とにかく港へ逃げないと。だんだんと風が、空気が、地面そのものが熱くなり始めてきた。
「バクアの奴らがこんな馬鹿なことしたから、島の神様が怒ってしまったのかな……」
寂しげな目で、ルースは震える山をしばらく見続けていた。