怒り
久々に頭に来た。つまりはあの細い目の理事長にいいように使われていただなんて。
あの野郎、顔の形が変わるまでぶん殴ってやる!
……と、その前にまずは村の連中を助け出さなきゃな。
俺の鉄拳でのびた船長を縛っておいて、俺とはありったけの武器をかき集め、そしてルースはというと、タージアと双子の四人で何やら草をかき集めている。あと台所に残された魚とか。
「この草の搾り汁とフグの皮から取れる成分がちょうどいい痺れ薬になるんですよね……ふふふ」
ああ、こりゃヤバい。いつもの悪魔なルースになってるし。
「そうそうラッシュ、殺しはご法度ですからね」
わかってる。むやみに殺すのはいけないってことくらい。ただ全員の手足の骨くらいは片っ端からぶち折る気持ちでいるけどな。
それと……そうだ、忘れてた。
あの双子にきちんと言わなきゃな、本来の俺のこと。
「いいか二人とも。俺たちは神様なんかじゃない。あの白いやつの名前はルース。そして俺はラッシュだ。戦いの神でもなんでもない」
「でもいっぱい武器持ってる、やっぱり神さま!」
二人は俺の勇姿をワクワクしながら見ている。
そうだよな、家ではチビにバレないように装備の手入れしてたしな……
「いいんじゃないですか。この子達にとってはラッシュ様は英雄に見えるんです」
エプロンと手を草の汁まみれにしたタージアはそう話してくれた。そういやこいつ、双子が近づいても怖がらなくなってるな……
ということで、双子から聞いた場所をたよりに、俺とルースの二人で別々の地点から攻め入る作戦とした。
ここの他にも森の奥に大きな広場があるらしい。おそらくはそこに村人が集められている……!
ルースはお手製の吹き矢にたっぷりの痺れ薬。
俺はいちおう銛と網しかないが、まあ……どうにかなるだろ。
「ラッシュ、なんか楽しそうですね」
お前もな。なんて他愛のない会話をして森の中をしばらく進むと、やはり……双子の話したとおり、ひときわ大きな広場が。その中心に村人が集められていた。
「俺たちを騙したのか!」
「騙したワケじゃないさ。お前たちがいつまで経っても回答を示しちゃくれない、おまけに島に近づくことすらさせないから、ウチの理事長が痺れを切らしただけのことよ」
そんな話を延々と。つまりはこの場で漁業権を明け渡さなければ、島の人たちは……ってことだろう。ふざけるな。先に痺れるのはお前らの方だ。
バクアから来た奴らは、ぱっと見て十……いや二十人ってとこだろうか。かろうじて俺でも数えられるくらいだ。
居ても立っても居られない。俺は銛を手に奴らの前にひとり躍り出た。
「よおラッシュの旦那! あんたたちのおかげでこの通り……ぐはッ!」
船長同様、そのムカつく鼻っ柱にゲンコツを見舞った。まずは一人目。
ナタやら手斧を手にしたバクアの漁師連中が俺を取り囲む。
「よくも俺たちを騙してくれたな……!」
多勢に無勢ってか、こんなのお手の物だ。
唯一の難点といえば……殺すことができないってとこだけかな。
「けっ、獣人なんぞ黙って俺たちに従ってればよかったものを」
「誰だ? 獣人は頭が悪いからすぐに騙せるって言ってた奴は!」
「だから獣人なんて仲間に加えなければよかったんだ」
……これが、お前たちの総意か。
俺たち獣人は人間と打ち解けたんだとばかり思っていた。それがどうだ? 都合良く利用され、挙げ句の果てには無知な存在だと言われて。
胸の中のムカムカを押さえつけるのは、もうやめだ。
死なない程度にブッ殺してやる。お前ら全員覚悟しやがれ!