急転
ともあれ、なんか釈然としない謎が俺の中でまた増えたのも確かなわけで。タージアを待たすわけにもいかないから俺は双子を連れて出ることとした。
……んだが、洞窟の前にいるあいつの様子がおかしい。
まるで身を潜めているような。
しーっ、とタージアが口元に指を当てていた。
なんなんだ、また怪物にでも出くわしたのか?
「(変です、この島の人じゃない方々が続々と村へ向かってるんです)」
俺が祠に入ってすぐだとタージアは言う。
いそそいつらが踏み荒らした道を調べてみると……うん。靴跡だ。しかもかなりの数。つまりはここの人間じゃない。
どうする、追いかけてみるか?
「いえ、ここでしばらく隠れていた方のがいいかなと。相手が何をしにきたのかも分かりませんし」
「俺たちを連れ戻しにきたとかじゃないのか?」
「武器を手にしてました……」
しばらくすると、村の方からヤバいくらいの叫び声が響いてきた。間違いない、連中は島に乗り込んで……えっと、何が目的なんだ?
理由は全然分からねえが、とにかく今は村に戻らなければ。俺は双子とタージアを小脇に抱え、村へと戻った。
……が、時すでに遅かった。
誰もいない。燃えている家々に散乱した食器くらいしか残されていなかった。
「うそ……」イファーとエファーは長老の居たであろう家の中を探していたが、やはり人っ子ひとりいなかった。
「まさか、連中が皆殺しにしやがったか……?」
「いえ、もしそうならば地面に血の跡が残されているはずです。それが残されてないということは……」
どこかにさらっていったってことか。
「白神様!」長老の家の奥からエファーの声が。
家に入ると、昨晩まで飲めや歌えの大騒ぎをしていたあの大広間は、見るも無惨に荒らされていた。
「ラッシュ……タージアも無事でしたか」
暗い広間の奥から、ふらふらとおぼつかない足取りでルースがやってきた。
「白神様ね、宝箱の中に入ってたの」
エファーはそう言った。なるほど、だから襲撃を免れたのか。
「襲ってきたのはバクア港の船着き場で働いてた人間でした……船長が率いてたんです、殺しはしないから黙ってついて来いって。そうしてみんな手を縛られ数珠つなぎにされて……僕は急いでこの箱の中に隠れたから助かりましたが」
船長のやつ、帰ったと思わせて援軍が来るのを待っていたってことか……しかしなぜこんなことを?
「おそらくはこの島を乗っ取りたかったのかも知れないですね」
「財宝でもあるのか?」
「それは分かりませんが、多分魚のほかに珊瑚がたくさん獲れるからじゃないかと」
「なんだサンゴって?」
俺の質問にルースは頭を抱えたが、タージアいわく「つまりは海の底で取れる宝石です。貴族や金持ちの人には高く売れますから」だと。
「おっ、お前らこんなとこにいたのか?」
振り向くとそこには、船でお世話になった船長が。
「ありがとな、お前たち神様連中がきたおかげで島の奴らみーんな警戒解いてくれてな。礼を言うぜ」
……そういうことか、俺たちは騙されてここまで来させられたっていうことか。
「騙したワケじゃねえさ。現に島のみんなはホンモノの神様が来てすげえ喜んでたろ? しかしあんたらにさっさと事情を話したところで警戒されるだけさ。敵を欺くにはまず味方からってね」
「島の連中をどうする気だ?」
「さあな? とりあえず理事長はバクアに連れてけって言われてる。そこで殺すか売り払うかするんじゃねえか?」
その言葉に、タージアの肩がビクッと震えた。
「殺す……だと?」
「ああ、この島はとにかく連中の警戒心がハンパなくてな、これまでにも仲間が何人か上陸した際に襲われて殺されたりしたことがあるんだ。俺たちはまず穏便に話し合って友達になりたかったのによ。まったく、こいつら獣人より野蛮だぜ」
「……いま、なんて言った?」
「え……?」
この男、俺たち獣人まで愚弄する気か。
ゲイルの話をしたときにはいい奴だと思ってたのに……つまりはこの程度のクソ野郎だったってことか。
「ラッシュ……怒りを抑えることはない。けど死なない程度にね」
震える俺の拳をルースがぐっと握ってくれた。
ありがとな、ちょっとこいつをかわいがってくるとするか。
「船長……ちょっと話がある」
「なんだ、ラッ……ごはっ!」
言い終えぬ間に、まずはその鼻っ柱にパンチを見舞ってやった。
とりあえず気の済むまで殴ったら話を聞いてやるとするかな。