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全裸痴女が出る

夜、全裸の痴女が現れ、その河原で裸で泳ぐという噂を聞いて俺たちは、その噂の川に向かった。
噂の真意などどうでもよかった。ただ、蒸し暑い夜だったので、川で遊ぶ理由が欲しかっただけだった。俺は酒を飲まなかったが、友達はビールを何本か飲み干して、水着はなかったので服を脱いで下着だけになって川に入ろうとした。
「おい、酒飲んで泳がない方がいいぞ」と俺は忠告したが、友達は笑って無視して、夜の暗い川に飛び込んだ。ばちゃばちゃと、冷たい水を浴びて、熱帯夜を忘れる。そして、女が出た。川の中から姿を現し、夜の暗がりでもはっきりわかるほどの白い裸体で川の中に立って、俺たちにこっち、こっちと手招きした。
「まじかよ、本当に裸じゃん、しかも俺たち呼んでるぜ、もしかして、俺たちと乱交したいのかな?」
俺たちはやりたい盛りのバカな大学生だったので、その全裸女に群がろうとした。
で、翌朝、溺れず、無事だったのは俺だけで、警察の事情聴取や記者の質問に川の中にいた全裸女に誘われて友達が川に入ったと話したが、その全裸女は、いつの間にか消えて、俺の友達は、川底で動かなくなっているのを警察のダイバーに見つけてもらい、新聞には、バカな大学生が、夜、酒を飲んで川に飛び込み事故を起こしたと、その全裸女のことはいっさい報道されなかった。ひとり生き残った俺は、溺死した友達の親になんであんただけが生きてるのと恨まれた。悪いのはあの全裸女だと思ったが、新聞の報道のように誰に話しても信じないだろうと思って、そのことは、もう誰にも話さなかった。大学を卒業して、ひとりだけ無事に社会人になっていた俺は、あの日と同じ寝苦しい夜に、ふと一人で、その河原に涼みに出かけた。
そして、見た。川の中で、全裸の女と死んだはずの友達が俺に向かってこっち、こっちと手招きしているのを。

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