12:30 A.M.
栗原が訊いてきた。
「ねぇ佐々木君。ずっと訊きたかったんだけどさ、なんで転校してきたの? 高校で転校するって珍しくない? あ、答えにくいようなことだったら全然答えなくていいんだけどさ」
僕は一瞬だけ悩んでから答えた。
「んー。なんとなくだよ」
「なんとなく!? なんとなくで転校することってあるの!?」
栗原は大袈裟なくらい派手なリアクションを見せた。
「別にいいじゃん。他の学校ってどんな感じなのかなって思ってやってみただけだよ」
「そんな軽いノリで!?」
こんな風な言い方をしておけば、本当はもっと重い事情があってそれを隠すために下手に誤魔化しているという印象を与えられるのではないかと思って、適当なことを言ってみた。
「そういえば前の学校でも小野寺と一緒だったんだろ? 一緒に転校するってのも珍しいよなぁ。小野寺もなんとなくで転校したの?」
狐酔酒が僕の手元に向かって言った。
結局通話は切らずに、けいも交えてしばらくみんなで話しながら歩くことにしたのだ。
けいの声が手元から聞こえてくる。
「そうでゴザルよ。どうせなら一緒に転校しようみたいな感じだったでゴザル」
けいも合わせてくれた。
「へぇー。変わってんなぁ」
狐酔酒はアホだから誤魔化せたようだ。
他の2人も納得こそしていない様子だが、追及はしてこなかった。
まぁ実際はもちろんそんな理由で転入したわけじゃない。
そもそも僕たちには前の学校なんてものがない。
1月から通い始めた今の学校が初めての学校だ。
僕とけいは、小学校も中学校も諸事情で通っていない。
天姉は小学校の途中に色々あって学校をやめた。
そして諸事情で僕たちは子供の頃から一緒に暮らしている。
諸事情というのを一言で説明すれば、誘拐された。
(詳しくは本編でやっているし、この話にはあまり関係ないから細かくは説明しないけど)
そんなわけで、自分たちの状況があまり一般的でないということを自覚している僕たちは、変なトラブルに発展したりしないように自分たちの過去について訊かれてもはぐらかすようにしている。