12:20 A.M.
「もしもし。なに用でゴザル?」
けいの声が聞こえてきた。
「今コンビニにいるんだけどさ、途中で狐酔酒と妖風と栗原にバッタリ会ったんだ」
「へぇー。それは面白い偶然でゴザルな」
「そんで、みんなけいのゴザル口調について知りたいんだって」
「なるほどでゴザル。じゃあ恭介殿、スピーカーにしてくれでゴザルよ」
僕は画面のスピーカーのところをタップして、3人の方にスマホの画面を向けた。
「したよ」
「おっけーでゴザル。あー、聞こえてるでゴザル?」
「聞こえてるわよ」
「お、ひーちゃんではゴザらんか~。休日にもひーちゃんの声が聞けて嬉しいでゴザルよ」
さっそくけいが妖風をからかい始めた。
「ひーちゃんって言うな。こっちはそんなに嬉しくないわよ」
「……声のこもり方から考えて、おそらく今ひーちゃんはマフラーをしているでゴザルな?」
「こ、怖ッ!」
ひーちゃん、もとい妖風は青ざめた顔でスマホの画面を見つめた。
「え、当たってたでゴザルか? 拙者すご」
「びっくりさせないで。あんたのことだから電話しながら背後まで忍び寄ってたりしても不思議じゃないし、普通に怖いのよ」
「あ、バレてたんでゴザルか? その通りでゴザル。実はさっきからひーちゃんを背後から観察してるんでゴザルよ……」
「え!?」
妖風は勢いよく振り返った。
「ははは。そっちじゃないでゴザルよ」
「こっちか!? それともこっち!?」
妖風はブンブン体を振ってあちこちに視線を向けた。
「……あの、緋彗? どう考えても遊ばれてるだけだよ? っていうか緋彗が動くと、一緒にマフラー巻いてる私までその動きに巻き込まれるんだけど」
栗原が諭すような口調で妖風に言った。
妖風は一瞬ポカンとしてから恥ずかしそうにマフラーに顔をうずめた。
「……ごめん。なんかはしゃいじゃった」
「いいよー。なんか見てて面白いし」
栗原はニヤニヤしながらそう言った。
「え、小野寺っていつの間に妖風と仲良くなってたの? オレ全然気づかなかったわ。いや、そんなことより小野寺のゴザル口調についてだよ! いい加減教えてくれよ」
狐酔酒がしびれを切らしたようにけいに訊いた。
けいは一瞬だけ間をおいてから、厳かに告白した。
「実は、拙者は忍者なんでゴザルよ」
「……そういうのいいから」
妖風がずいぶんと冷めた口調で言った。
「えーほんとでゴザルのにー」
「どうやっても教える気はねぇみたいだな。諦めるわ」
狐酔酒はそんなに期待してなかったのか、簡単に引き下がった。
「拙者がゴザル口調である理由はトップシークレットでゴザルから簡単には教えんでゴザルよ。ところで、女の子だけで福岡の夜道を歩かせるってのも危ないでゴザルし、飛鳥殿も恭介殿も途中まで送ってったらどうでゴザル?」
「別にそんなのいらないわよ。ここまでも2人で来たんだし」
妖風はそう言って断ったが、けいは粘った。
「いやいや。ここは福岡県なんでゴザルよ? 危ないでゴザろう」
「あんたは福岡をなんだと思ってるのよ……」
「まあまあ、せっかくだし送ってもらおうよ。マフラー借りてるし」
栗原が妖風をそう説得した。
「あ、そうだった。どうせ送ってもらうしかないのか。じゃあ、よろしく」
妖風は僕と狐酔酒の方を見ると、小さく頭を下げた。
「よろしく~」
栗原もにこやかにそう言った。
狐酔酒は笑顔で承諾した。
「おう。しっかりお守りするぜ~。佐々木もいいか?」
「うん。1人で歩く楽しさもあるけど、やっぱりちょっと暇だし」
僕の言葉に妖風が反応した。
「え、あんた1人で歩き回ってたの? そっちの方が全然危ないじゃん」
「そんなことないよ。ちゃんと準備運動してきたし」
「答えになってないわよ……」
いつまでもコンビニの前にたむろしているわけにもいかないので、僕たちは歩き始めた。