12:40 A.M.
「話全然変わるけどさ、妖風ってこんな時間までメイク落とさないんだね」
僕は話題を変えるべく、妖風に振った。
「今日はちょっとね。まだお風呂入ってないのよ」
「へぇー。結構入るの遅いんだな」
狐酔酒が意外そうに言った。
「いつもはもっと早いんだけど、今日は窓無が家にお泊りに来てるからね。さっきまでずっと遊んでたの。んで気づいたら遅くなってて、お菓子食べたくなったからコンビニ行こうって話になったんだけど、お風呂入ってからだと湯冷めして風邪引くじゃん? 逆だったら夜道を歩いて冷えた体をお風呂で温めれるし、そうしようってなったの。行動の順番って大事よねぇ」
「なるほど。確かに。意外と頭良いんだな妖風って」
狐酔酒が感心している。
妖風は得意げに胸を張った。
スマホからけいの呆れたような声が聞こえてくる。
「ってことはひーちゃんは今いつもみたいに目の下にナメクジつけてるんでゴザルか。休日くらい目の下のナメクジ外せばいいでゴザルのに」
「目の上のたんこぶみたいに言うな」
妖風とけいのやりとりを聞きながら苦笑いしていると、狐酔酒がペットボトルを差し出してきた。
さっきコンビニで買ってたスポーツ飲料だ。
「ひと口やるよ」
「お、ありがとう。おいしい?」
「まぁとりあえず飲んでみな」
飲んでみた。
慣れない味が口の中に広がる。
でも決して嫌な感じはしない。
普通においしかった。
「初めて飲んだけど、おいしいね」
「うめぇだろ。ほんとは運動してから飲むのが最高なんだけどな。ってか初めて!? こんな有名な飲み物を高校になって初めて飲むなんてことがあるのか?」
「奇跡的に回避して生きてきたんだよ」
「へぇー」
狐酔酒は疑うような目を僕に向けてきた。
「これ、そんなに有名なの? 栗原たちは知ってる?」
栗原は当然だというように頷いた。
「私はそれのこと運動部ジュースって呼んでる。運動部が常備してるイメージがあるから」
「ふーん。妖風も知ってる?」
「アタシはあんま飲まないけど、運動する時の定番のやつよね」
「ほんとに有名なんだ。みんな知ってるとは」
「知らない人の方が珍しいでしょ。なんなのあんた。もしかして世間知らず的な? ずっと山籠もりでもして暮らしてきたの?」
ギクッ。
妖風は冗談のつもりかもしれないが、ほぼ正解だ。
「山籠もりって……。流石にそれはないでしょ~」
栗原が茶化すように言った。
ナイス栗原。