第17話 信じたくない事実
「本当に君は『クバルカ・ラン中佐』なのかな?……本当に『エース』なのかな?」
そう言うのが精いっぱいだった。もし、誠の感受性が豊かであれば、現実を見つめられずにそのまま家に帰宅して終生外界との音信を途絶するぐらいのショックを受けていても仕方のないような出会いだった。
どこからどう見ても、ただの少し目つきが悪い少女にしか見えない。
十年前の『激しい内戦』の勝敗を左右したほどのエースパイロットだということを認めたとしても、それが八歳の幼女であるということがなぜこんなに世間で騒がれないのか理解できなかった。
その、クバルカ・ラン中佐を『自称』した幼女は腕組みをして誠を見上げる。ただ、その『風格』は、一応は成人している誠からしても普通の幼女とは一味違う雰囲気を醸し出していた。
「『エース』かどうかはアタシは興味がねーな。ただ強いのは間違いねーよ。間違いなく『人類最強』だ。八丁味噌野郎、そんなお方の部下になれるんだ、うれしいだろ?」
ランは自分は間違いなく『人類最強』だと主張した。
「嘘ですよね……ちっちゃいじゃないですか……『人類最強』だったら大きくないと……力とかどうするんですか?」
明らかに大げさすぎるランの表現に誠は本音を口にしていた。
「オメー本当に大学出てんのか?なんでもデカけりゃいいってもんじゃねえだろ?そんなのは戦場じゃあーただの的だ。『コンパクト』&『ハイパワー』。これがアタシのキャッチフレーズだ。でかくて力があるのは当たり前。そんなことも分からねえから八丁味噌頭なんだ」
自信満々にランはそう言い放った。別に『軽自動車』の宣伝文句を言ってくれと頼んだわけではないが、その根拠のよくわからない迫力に押されて誠は黙り込んだ。
「証拠が欲しいって言う面だな……生意気だな……人は見かけじゃねーんだぞ」
ランはそう言うとスカートのポケットから通信端末を取り出して、誠の目の前に突き付けた。そこにはランの写真と初めて見る書式の身分証が映し出されていた。
「2650年6月6日生まれ……僕より十歳年上……今年で三十四歳……」
口ごもる誠にランは満足げに頷いてみせる。ライトブルーの軍服を着た幼女にしか見えない彼女は腕組みをして誠をにらみつけた。この態度には誠も見覚えがあった。