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第18話 『説教モード』

 いわゆる『説教モード』である。

「まず、強いことの条件にはいくつかある。第一に、命を奪いかねない経験。そして、本当なら死んで当然の経験をしている……この二つを経験しないと『強い』とは言えねーな。ただ、この二つは物理的に強いかだけだ。『人間』が出来てりゃ、赤ちゃんでもОKだ。舐めるなよ、赤ちゃんを」

 そう言ってほほ笑むクバルカ・ラン中佐だが、誠には偉そうな八歳女児にしか見えない。

「赤ちゃんが……強いんですか?」

 どうやら『説教』には慣れているランに誠はそんな問いをぶつけてみた。

「そうだ、赤ちゃんだってすでにものすごく『強い』。おそらくまともな人間なら、絶対勝てねーな。言うだろ『泣くこと地頭(じとう)には勝てねー』って。学校で習わなかったか?」

 誠は高校時代の『国語』が大の苦手だったので、そんな『ことわざ』を知らなかった。結局誠はランの言葉の意味がよくわからなかった。

「生き物の『命』はみんな『強い』んだ。そーでなきゃ生きる意味はねー。違うか?味噌頭には縁のない話かもしれねえがな」

 ランはそう言うと誠をにらみつける。その可愛らしい幼女の姿から想像できない鋭い眼光に誠は恐怖を感じた。小さなランから放たれる圧倒的な『殺気』。誠はその雰囲気にひるんで、思わずしゃがみこんだ。

『……この子……口だけじゃない。雰囲気でわかる。圧倒的に『強い』……』

 誠は実家は剣道道場である。

 道場主の母を訪ねてきた、名のある『武闘家』にも何人も出会っていた。彼等の持っている『雰囲気』を知っている誠はそう確信した。

 そして誠は彼女の気配に少しおびえている自分を見つけた。クバルカ・ラン中佐が『かっこかわいい幼女』であるのは事実としても、その放つ殺気はただ者のそれでは無かった。

 殺気を放った幼女の姿におびえる誠に、彼女は優しい笑顔で手を差し伸べた。

「大丈夫か……驚かしてすまねーな。アタシは『平和主義者』なんだ。傷つけることも人が傷つくのも嫌れーだ」

 ランは微笑みはどこまでも優しかった。

 ちっちゃくて『萌え』で『キュート』な姿かたちと、優しくて知的なランの言葉に誠は魅了されていた。

 誠はランの差し伸べた小さな手を握る。暖かくて優しい八歳児の女の子の手だった。

 それは決して、『内戦』の行方を左右した『無敵のエース』の手であるとは、誠には思えなかった。

「とりあえず車に行くぞ」

 握手が終わると、自分の姿にうっとりとしている誠に向かってランはそう言った。誠は自分の胸にも届かない身長の『敗戦国の英雄』と呼ばれた幼女を見つめた。

『小さい……でも、あの目……『遼南内戦』は壮絶だったと聞くから……このかわいい子は……相当人を殺してるんだ……』

 小さなランの背中を見て我に返った誠は、自分の荷物を持ち直して彼女の後を追った。


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