死神予約
そのサイトは死にたい希望日を入力すると、その希望通りの日に死神が来てくれるという胡散臭い個人情報収集のための詐欺サイトのように見えた。だが、どうしても生活に疲れて死にたくなっていた私は一ヶ月後、なるべく苦しくない死を希望してサイトの入力欄を埋めて送信した。そして、その日になるまで部屋の掃除や、退職届や残っていた有給の消化をして、その日まで有り金全部つかって、行きたいところや、食べたいものを食べた。あの胡散臭いサイトを信じたわけではないが、心身ともに生まれ変わりたい気分だったのでその日が来るまで、やりたいことをやれるだけやった。
そして、その日、出会った。その日はこれまで敬遠していたアウトドアを楽しもうと初心者でもハイキング気分で登りやすい近場の山に向かおうと電車に乗り、目的の無人駅に降りようとした。
他の乗客が、電車の車掌に切符を渡してどんどん登山口のある改札を出ていくのに、その老人はホームに立ちに私を見ていた。私も、とりあえず、切符を車掌に渡してホームに降りた。そして、乗客を降ろし終えた電車が走り出してから老人に声をかけた。
「あなたが、死神?」
「よく分かりましたね」
「そりゃ、あれだけじっと見つめられればね」
それに、この駅は登山を楽しむ客以外、降りなさそうな辺鄙な無人駅である。そんな駅に場違いなスーツ姿の老人が降り立てばいやでも目立つ。
「今日が、お約束の日です、このまま登れば、途中で、火山性活動の副産物的な有毒ガスが発生してあっさり死ねますよ」
「それを、わざわざ教えに来てくれたの」
「はい、あなたの人生はまっさらで何もなさすぎでして、罪も罰もありませんから、このままお連れするのは、どうかと思いまして」
「そのガスって苦しいの?」
「いえいえ、だんだん眠くなり、ふと休んで地面に腰を下ろすと、ちょうどガスが滞留している位置に顔が来まして、思い切り吸い込んでしまって眠るようにあの世に」
「なら、いいじゃない。なにもなさすぎる人生だから、死にたいと思っていたところだから。そんな死に方したら大ニュースになって私の名前が公式記録に長く残るんじゃない」
「前向きな方ですね」
「なにもない人生だったけど、最期に山の怖さを伝える死を向かえるなんて、カッコよくない?」
「それで本当にいいんですか」
「うん、それでいいと思う」