旅の再開
それから数日経った頃、ようやく出発準備が整ったらしいんだけど、そこで俺はあることを思い出したんだよね。
そう、魔王様の事をすっかり忘れてたんだよ!
(おいおいマジかよ)
まさかこんな大事なことを忘れるなんてどうかしてるよな?
慌てて謝ろうとしたんだが、それよりも早くに魔王様が話し掛けてきたんだよ。
「もう、待ちくたびれたんだからね? 次に会ったら覚悟しといてよ!」
そう言われたものの全く怖くは無かったんだけどね、まあでもそれだけ心配してくれてたのは本当に嬉しかったかな。
そんなこんなで俺達は魔王軍の拠点に向かって出発したんだが、これがまた大変でさぁ……。
道中出てくるモンスター達と戦う事になったわけなんだけど、その度に怪我を負ってしまったりするもんで結構危なかったんだよね。
特に僧侶さんと魔法使いちゃんは魔法力を使い切っちゃったらしくて何も出来ない状態だったんだけど、そこを何とか俺が頑張ってカバーしてたんだよね。
そしてどうにか目的の街へと到着することが出来たわけだけれど、そこで目にしたものは想像を絶するものだったんだよな。
まさかここまでの事態になるとは思ってなかったから、流石にビックリしちゃいましたね、
何しろ街がめちゃくちゃになってましたからね。
まあでも、それでもなんとか回復魔法を掛けて何とか死者を出すことはなかったのでそこは本当に安心したよな。
ただ、一つだけ問題があるとすれば僧侶さんと魔法使いちゃんが使い物にならなくなったことで戦力ダウンしてしまった事だ。
これはかなり痛かったんだけど、それでもやるしかなかったわけで頑張るしかなかったんだな。
そんな訳で俺達は街の中心部にある城へ向かうことにしたんだ、しかしその前に門番が立ちはだかりやがったんだよね……まあ当然だろうけどな。
でも、ここで諦めちゃ駄目だよな? と思って何とか侵入を試みたんだけど失敗に終わってしまったよ。
「勇者様、ここは私に任せてください!」
そう言って出てきたのは剣士さんだったんだよ。
彼女はそのまま門番達に向かって突っ込んでいくと、あっという間に倒してしまったんだ。
流石としか言いようがないよな!
その後、俺達は城の中へと侵入することに成功したんだが、そこで魔王様と再会することができたんだ。
しかし、そこにいたのは魔王様だけでは無かったんだよね……なんと四天王の一人が待ち構えていたんだよ。
そいつはかなり手強くて苦戦したんだけど、何とか倒すことが出来たんだ。
だけど、その時に受けたダメージが大きかったみたいで回復魔法を掛ける前に倒れちまったんだよな……まあでも幸いにも命に別状はなかったから良かったけどな。
そして気が付いたら俺はベッドの上で寝ていたわけなんだが、どうやら誰かが運んでくれたみたいだったな。
それから数日間の間は安静にしていたおかげで体調も良くなってきたので改めて旅を再開する事になったんだけれども、
「勇者様、大丈夫ですか?」
そう心配そうな声で話し掛けてきたのは魔法使いちゃんだった。
彼女はとても優しい性格の持ち主で、いつも俺の事を気にかけてくれるんだよね。
そんな彼女に俺は感謝していたんだけれども、同時に申し訳ない気持ちもあったんだよな……だって、
俺が弱いせいでみんなに迷惑をかけてしまっているわけだから、本当に申し訳なかったと思っているんだよ。
(でもまあ仕方ないよな?)
そう思いながらも旅を続けることにしたんだが、そこで新たな出会いがあったんだ。
それは、魔王軍四天王の一人であり、俺の元仲間でもあった剣士さんだったんだよ。
まさかこんな所で再会できるとは思ってなかったからかなり驚いたけど、それ以上に嬉しかったんだよな。
だって、また一緒に戦えるわけだからな!
(やったぜ)
と心の中でガッツポーズをした俺だったが、その直後にとんでもない光景を目にする事になったんだ。
「勇者、無事だったんだね!? 良かったぁ……」
彼女が泣きながら抱きついてきた時はかなり焦ったんだが、すぐに冷静さを取り戻して優しく抱き返したんだ。
すると、今度は後ろから誰かに抱きつかれた感触がして振り返るとそこには魔法使いちゃんがいたんだ。
彼女も目に涙を浮かべていたのだが、それを見た瞬間、こっちも泣きそうになってしまったよ。
だが、今は泣いている場合ではないと思い直して、気持ちを切り替えたんだ。
それからしばらくして、俺達は目的の場所へ到着したんだが、そこである物を見つけたんだよ。
それが何かと言うと、実は俺達が戦っていた魔王軍の本拠地なんだが、そこにあったのは廃墟だったんだ。
しかも、人の気配は全く無かったから不思議に思っていたんだが、どうやら何者かによって襲撃を受けた形跡があったみたいなんだ。
それも、かなりの激戦が繰り広げられていたらしくって、辺り一面が焼け野原と化していたよ。
(こりゃあ酷いな……一体何があったっていうんだよ?)
そんな疑問を抱いている時だった、突然背後に気配を感じて振り返ると、そこに居たのは見知らぬ人物だった。
そいつの姿はまるで忍者の様な格好をしていたんだが、その容姿は明らかに人間離れした姿をしていて、明らかに普通の人間ではなさそうだった。
それを見た瞬間、俺は直感的にコイツが魔王軍四天王の一人だと悟ったんだ。
何故なら、以前戦ったことがある奴と瓜二つだったからだ。
しかも、奴は俺のことを睨みつけると、こう言ってきたんだ。
「我が名は、影法師なり、貴様の命運は既に尽きたも同然なのだ、大人しく諦めるがよいぞ」
そう言って不敵な笑みを浮かべると、ゆっくりとこちらに近づいてきたんだ。
それを見た俺は咄嗟に身構えたんだが、奴が目の前まで来た時、急に姿を消してしまったんだ。
その瞬間、何が起こったのか分からず混乱していたのだが、その時になってようやく気がついたんだ。
自分の首が斬り落とされたということに、気が付くと同時に意識が遠のいていくのを感じた俺は、
そのまま意識を失ってしまったようだった。
(あれ、ここは何処だ? 確か俺はあの時死んだはずじゃ……? ということは、ここが天国なのか?)
そんなことを考えているうちに目の前に女性が現れたのだが、その姿はとても美しく見惚れてしまうほどだったんだが、
よく見るとどこかで見たことがある顔だと思った瞬間、全てを思い出したんだ。
(そうだ、この人は俺の彼女じゃないか! 何でこんなところにいるんだ?
いや待てよ、もしかしたらこれは夢なのかもしれないな、試しにほっぺを引っ張ってみよう)
そう思って思いっきり引っ張ってみたんだが普通に痛かったので現実だということを理解することができた。
そうなると次の問題は何故彼女がここにいるのかということだが、その理由はすぐに分かったのだった。
なぜなら、彼女のお腹が大きく膨らんでいたからだ、つまりそういうことなんだろうと思ったんだが正解だったようだ。
彼女は満面の笑みを浮かべながら話してくれたんだが、その内容を聞いているうちに涙が出てきたよ。
(そうか、子供が出来たんだな……よかったなぁ、本当に嬉しいよ!)
そう思うと更に涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。
その様子を見ていた彼女ももらい泣きしてしまい、しばらくの間二人で泣いていたんだけど、
その間はずっと手を握ってくれていたおかげで落ち着くことが出来たんだ。
そして、ようやく気持ちが落ち着いたところで彼女に聞いてみたところ、予想通り妊娠していることが判明したんだが、
それと同時にもう一つ重要なことが分かったんだ。
それは、俺が既に死んでしまっているという事実だった。
(ああ、やっぱりそうなのか……)
そう思いながら落ち込む俺に、彼女は優しく微笑みながらこう言ったんだ。
「大丈夫よ、あなたは死なないわ、私が守ってあげるから安心していいのよ?」
その言葉に安心した俺は、落ち着きを取り戻した後に、気になっていたことを聞いてみたんだ。
それはどうして俺が死ななければならなかったのかという事についてなのだが、それに対する彼女の答えは驚くべきものだったんだ。
というのも、その原因を作ったのは俺自身にあったというのだ。
どういう事かと言うと、そもそも魔王軍に寝返ったのは俺自身の意思によるものではなく、
ある男に操られていたことが原因だったらしいのだ。
しかも、その男は俺の幼馴染でもあるらしくて、そのせいで魔王軍は窮地に陥ってしまったということだったようだ。
だから、本当なら俺は死ぬ必要などなかったはずなのだが、どういう訳か俺は殺されて、
その結果としてこの世界が滅びようとしているらしい。