第12話 就業弱者
誠が大学四年の夏、持ち前のめぐりあわせの悪さで企業の内定の一つももらえずに四苦八苦していた。長く続く不況に企業の新卒採用の意欲は低く、誠自身もコミュニケーション能力に著しい欠点があることから考えても当然の話だった。ゼミの教授に頼み込むという手も無いでは無かったが、その教授の評判はあまり芳しくなく、ブラック企業に生徒を売り渡す『人買い』と言う別名を持っている教授を頼むつもりも無かった。
そんな誠にちょこちょこ寄ってきて耳元で、
『いい話があるんだけどさあ……聞いてみない?』
などと、何を考えているのか分からないにやけた面で話しかけてきたのが、他ならぬ嵯峨だった。
その声に耳を貸さなければ、今こうしてすることもなく、地下駐車場で立ち尽くすという状況にはならなかったはずだ。
その日は嵯峨に言われるまま、何の気なしに嵯峨の手にしていた『東和共和国宇宙軍幹部候補生』の応募要項を受け取った。そして、特に興味は無かったが、内定を取れない焦りから、仕方なく応募用紙に必要事項を記入してポストに投函した。本来はそれで終わりのはずだった。
しかし、そんな興味の全くなかった『東和共和国宇宙軍』から翌日の夕方には電話があった。なんでも、その次の日に一次面接があるという。
今思えば完全にできすぎた話だが、当時はそれどころではなかったので仕方がない。誠は初めての好感触にそれなりに喜んで、これまで受けた民間企業と変わらない一次面接を済ませた。
家に帰ると、誠の持っていた通信タブレット端末に一次面接の合格と二次面接が次の日に東和宇宙軍総本部で行われるというメールが来ていた。
今、この地下駐車場で辞令を手に考えてみると明らかにおかしな話だったことは分かっている。
誘い出されて行った二次面接の場所は、この赤レンガの建物で有名な東和宇宙軍総本部だった。そのビルに呼び出されたのは誠一人だった。質問内容も説明のセリフも、一次面接と何一つ変わらないどうでもいい内容だった。
そうして誠はとりあえずの二次面接を済ませた。
この段階で誠は、この就職試験が『おかしい』ことには気づいていた。しかし、大学の同級生が次々と企業や役所の内定をもらっていく中、仕方なく誠は嵯峨と母が勧める『東和共和国宇宙軍幹部候補生』採用試験を辞退しない決断をして、立派な面接会場を後にした。
家に帰ると通信用タブレットにメールが入った。
その内容は内定決定。あまりの出来事にあれほど待ち望んでいた内定通知をただぼんやりと眺めていたのを覚えている。
その時それを辞退する勇気があればこんなことにはならなかったはず……今でも誠はそのことを後悔していた。