神経が腐ってる
あいつらは、視神経が腐ってるので、夜はろくに見えず動かないという噂があった。心臓が止まっているのだから、神経が使い物にならないから視覚や聴覚が鈍っているはずだという理屈だった。だが、薄暗い月明かりの下でも、獲物を求めて死人たちは街を徘徊していた。
「ど、どうするんだよ。囲まれてるぞ」
「そんなの知らないわよ、腐ってるのに夜目が効くなんて反則じゃない」
「チッ・・・」
なんとか物陰に隠れてふたりでやり過ごそうとじっとするが、動きの鈍い奴らは、なかなか他所に行こうとしない。
俺たちは、息を殺して、身をひそめた。
「い、いやぁああ、こ、こっち来ないで」
急に近くで悲鳴がした。もしかしたら、俺たちみたいに、あいつらは夜はろくに何も見えないだろうと夜の町にノコノコ出て来た人かもしれないが、助ける余裕はなく、むしろ、チャンスとばかりに、その悲鳴の主が襲われている間に、俺たちは月明かりの下の薄闇の中を逃げた。姑息だが、こういう他人を犠牲にしてでも生き残るという気概がなければ、生存不可能な世界になっていた。