穴を掘る
月明かりの下で、私は誰かに見られないかと少し周りを警戒しながらホームセンターで購入したスコップで穴を掘っていた。誰にも見られないだろう人気のない山奥を選び、誰もが寝静まる深夜なので、少し気にしすぎだとは思ったが、もし誰かに見られたらおしまいだ。なにしろ、死体遺棄というベタな犯罪の真っ最中なのだから。彼が友達と浮気したので、それを問い詰め口論となり、弾みで殺してしまい、その遺体の始末にこんな山奥に来て穴を掘っていた。浅く掘ったら動物に掘り返されるかもと思うと、どうしても掘る手を止められなかった。
そして、そろそろいいかなと思ったとき、スコップの先に何か硬いものが当たった。石かと思ったが、穴の底まで届く月明かりの下でどろまみれの衣類と頭蓋骨を見つけてしまった。
「な、なに、これ・・・」
一瞬、唖然としたが、私はすぐ理解した。誰かが私と同じように遺体を埋めたのだ。人目に付きにくそうで、民家がそばになく誰にも悟られずに車で遺体を運べる場所と私と同じように考えてここを選んだ先客がいたのだ。
私は、これ以上穴を掘るのをやめて、もう遺体を埋めることにした。白骨化した遺体があるのなら、深さはこれで十分と判断して私は車に戻って遺体を運ぼうと穴から出ようとしたが、穴から出た瞬間ガツンと堅いもので叩かれ穴の底に落ちた。
「こんな山奥に車が入っていくからおかしいとは思ったけど、まさか、ここを掘り返されるとはね」
その女は、白骨化した遺体を埋めた女だった。彼女は、遺体が掘り返されるのを恐れて、この近くにひっそりと誰にも分からないように住んで見張っていたのだ。
そうして、私は証拠隠滅のために自分の掘った穴にその白骨死体とともに埋められた。私の車は、そのまま山奥に放置され、私が埋められなかった彼の遺体も放置された車の中で朽ち果てた。