雑踏
俺は地下街の雑踏の中を歩いていた。このクソ暑い夏の時期、地上を歩くのは愚行だと思ったからだ。サラリーマン、主婦、夏休みらしい私服の学生たちも、地下街を歩き雑踏を形成していた。人が多くても地下は冷房が効いて涼しい。
「・・・あの子が・・・た」
「あ?」
「あの子・・・いなく・・・・・った」
周りの人たちが急に何かブツブツ何か言い始めたので俺はふと足を止めてしまった。
「あの子がいなくなった。あの子がっ! 次は、お前だ!」
全員が一斉に俺を指差したので、俺は訳も分からず、とにかく全力で逃げ出した。逃げないと捕まって何かされるという恐怖が俺を動かしていた。実際、その雑踏から消えた俺は、そのまま行方不明扱いにされた。