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父の靴

朝、大体、いつも父と一緒に朝食を食べ、父が先に家を出ていく。だが、その日は、父がいなかった。
「母さん、父さんは?」
「仕事で、朝早くに会社に行かないといけないって、もう出てったわよ」
「ふ~ん、で、父さんと離婚するの?」
「え,なに言ってるの」
「だって、昨日の夜、離婚するしないとすごく喧嘩してたじゃない。聞こえてたよ」
「あら、そうだったの、みっともないところ、聞かれちゃったわね。でも、離婚なんてしないわよ」
「本当?」
「本当よ」
でも、僕は知っていた、玄関に父の靴が残っているのを。僕は子どもだが、察しが悪いほどのガキではない。
父は、まだ会社に行っていない。つまり、この家のどこかにいるのだ。母を問い詰めても正直に話してくれるとは思えない。僕まで、家の中に閉じ込められる可能性があるからだ。僕は母の用意してくれた朝食をいつも通り食べながら、平静を装うのに苦労した。この家から早く出ないといけないと内心で焦っていた。本当に何もなかったように、いつも通りに振舞う母が別人のように怖かったからだ。

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