加藤菌
その女は、自分がちょっと美人で男子にちやほやされて調子に乗り、学生の頃、オタクの俺を見下し、汚物のように臭いとか汚いから近づくなと教室で俺を罵ったりした。オタクの俺を擁護してくれる女子なんかいなくて、男子も彼女の調子に合わせて俺を「汚い、学校に来るな、教室が加藤菌で臭くなる」など散々暴言を吐かれた。
だが卒業後、勉強して大学で教授の研究を手伝いながら、個人的にも、世界的な発見をいくつもし、また体の健康状態を良くするいくつもの乳酸を見つけ、その発見した菌の権利などで財産を得ていた。癌になりにくくなる食品と聞けば、誰だって飛びつくだろう。そういう健康食品を俺は生み出し、ニュースにも出ていた。
金は力である。俺が金持ちであることは同級生にも知られていて、同窓会に出ると、久しぶりに会った同級生がこびへつらい、自分の会社の商品を買わないかと寄ってきた。あの頃と力関係が全く逆転していた。
俺とパートナー契約している食品会社に勤めているらしい奴なんか、あの頃はひどいこと言って悪かったとペコペコと何度も頭を下げた。
「いや、確かに、あの頃のばい菌扱いはひどかった。社長に話しておこうか」
そういうと、そいつは同窓会会場で、バッと見事に土下座した。
「申し訳ありませんでした」
「ま、いいよ、昔のことだし。それより、俺を一番ばい菌扱いしてた彼女、見ないけど? 今日、欠席?」
「加藤、おまえ知らないのか?」
「なに?」
「数年前、顔に醜いできものができてさ。それが、醜く膿んで臭くて、人前に出れなくなって、今、遠い親戚の家にお世話になってるってさ」
「俺の加藤菌が移ったのかな」
「ハハ、まさか・・・」
俺は冗談ぽく言ったが、俺が大学の卒業論文で出したのは、細菌兵器になりえる生きた人間の免疫力を越えて肉体を腐らせることができる細菌についての考察だったと言うのは、同級生たちには黙っておこうと決めた。