酔っ払い女
仕事の付き合いで帰りが終電近くなった夜、改札を出るとすぐ前を酔っているらしいフラフラと歩く女性がいた。仕事帰りの女子会で飲み過ぎたのか、危ない足取りで、つい気になってしまう。すると、いかにも軽薄そうな若い男が、「お姉さん、大丈夫」と馴れ馴れしく近づき、身体を支えるように肩を抱いた。その女性は酔いのせいか、一瞬だけ驚いた感じだったが、さして抵抗はしなかった。
危ないなと俺は思った。世の中には、クズの男が確かにいる。酩酊状態の彼女に何かいたずらするのではないかと俺は気になって二人の後を追った。思った通り、男は、酔っている彼女を暗い夜道へいざなった。確か、この先には広い公園があるだけのはずだ。ますます男の行動の下種さに俺の正義感が熱くなる。
暗がりで彼女にいたずらしようとした瞬間、何をしてるんですかと声を掛けてやろう。それで萎えて、おとなしく彼女を解放すれば良しと、俺は二人の尾行を続けた。そして、暗い公園に入り男が彼女に覆いかぶさろうとしたのを見て、俺は男の邪魔をしようと近づいた。
だが、俺は間違っていた。襲われていたのは彼女ではなく、男の方だった。
暗闇で光る眼をカッと見開き、彼女は男の首筋に噛みついていた。噛みつく彼女と俺は目が合って、すぐに覚った。酔ったふりをして、男を誘い、暗がりで血を吸っている吸血鬼だと。
血を吸われている男を助けようなんて思わず、俺はすぐ本能的にその場から逃げ出していた。
食事の最中だったからか、彼女は俺を追っては来なかった。
もちろん、その後、終電近くまでの付き合いはやめて、暗くなる前に即帰る様になった。