見つけた
やっとあのおかしな地下街から逃げ出せたと思ったら、繁華街のど真ん中、会社帰りに一杯という感じのおっさんだらけの人ごみのなかにいた。どういう風にあの廃墟の地下街とつながっていたのか分からないが、とにかく、このままこの人ごみに紛れて逃げるのが得策か。俺の身体は下水を逃げ回ったように臭かったが、繁華街ゆえ、誰も気にしない。こんな繁華街なら警察官が常駐している交番が近くにあるかもしれない。そこですべてを話して保護してもらうか。だが、変な地下街に迷い込み、頭のいかれた女に追い回されたなんて、信じてもらえるとは思えない。実際に体験した俺でさえ、こうして日常的な人ごみを見ると、あれは夢だったのではと思えてくる。どんと肩がぶつかった。
「おい、ぼっとしてるなよ」
そう言われて、俺は反射的にぺこりと頭を下げていた。確かにこんな人ごみの中で考え事して立ち止まる方が悪い。
「見つけた、ふふふ・・・」
あの殺人狂の女の声が人ごみの中から聞こえた。だが、辺りを見渡しても、あの女は見当たらない。
いないとほっとした瞬間、上から白い手が伸びてきて俺の頬を撫でて首を絞めてきた。俺は周りに助けを求めようとしたが、その女は軽々と俺を空に持ち上げて、首つりのように首を絞めた。
何人か気づいた人もいたが、その人たちも、上を見上げた瞬間、別の女たちに吊り上げられていた。自殺で死ぬ人は多い、そういう怨霊が、仲間を求めて生者を追い立て、狩りを楽しむ様に殺していても不思議ではない。現代は、自殺者も多いが、行方不明者も多いのだ。