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誰も助けない

それが、彼女自身の赤い血なのか、誰かの返り血なのかは分からない。地下街に人は多いのに、誰もが気持ち悪がって、その女を避けて、助けようとはしなかった。とにかく、血まみれの女がふらふらと歩いていた。女の歩いた跡に、赤い足跡が続き、それを気味悪がるように人々が避けて歩いていた。バタンと力尽きるように倒れても、誰かが助けるだろうと皆考えているのか自分から動こうとする人もいない。私も、人の流れに任せてその場を去った。人の流れの多い場所で、勝手に立ち止まると迷惑に思われるだろうと思ってその女を無視してしまったのだ。で、家に帰って落ち着くと、あの女性のことが気になってネットで検索してみたが、血まみれの女性が保護されたというニュースはなく、自力で何とかしたのだろうと楽観的に考えて寝るために洗面台で顔を洗うことにしたのだが、ふと見た洗面台の鏡の私の背後に、あの女が立っていた。そういえば、私がそばを通り過ぎるとき、恨めしそうに睨まれた気がする。

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