あいあい傘
その奇妙な男性は傘をさしながら、ブツブツと、となりに誰かいるようにずっとしゃべりながら歩いていた。正直、すれ違う瞬間、少し距離を開けたが、歩道というものはそれほど広くはなく、つい、私は、その男性を間近で見たが、
ひとりでブツブツ言っている以外、頭がおかしいようには見えなかった。そして、彼が遠ざかっていくのを、見送ったとき、私は、ハッと気が付いた。彼の足元、その隣にパチャパチャと透明人間でもいるように水を撥ねる足跡を見た。確かに、彼の隣には誰かいて、その見えない誰かと彼は話していたのだ。
死んだ恋人の幽霊? それなら、一般人の私が見えなくて当然だと、少しゾッとしながら納得してその場を去った。