傘おいてけ
そいつは、日本刀を手に、背中には籠一杯の傘を背負っていた。
悲鳴を聞きつけ駆けつけた警邏中だったふたりの警察官が拳銃を抜いて、傘を手に震えている女性と、その日本刀男の間に入る。
「お嬢さん、こっちに隠れて・・・」
「動くな」
拳銃を構えつつ、警官が男を威嚇する。が、日本刀男は拳銃におびえることなく言った。
「傘、おいてけ」
「刀を置きなさい、速やかに刀を捨てなさい、出ないと発砲します」
日本刀男より、拳銃を構えている警察官の方が、おびえて緊張しているようだった。射撃訓練は定期的にしているが、実際に人を撃ったことがほとんどないのが日本の警察官である。
「早く武器を捨てろ」
常識的に拳銃の方が有利である。正常な人間なら、それを理解できるはずだが、日本刀男は、カッと目を見開き、「傘、おいてけぇ~」と叫びながら、
突っ込んできたと、同時にパァンと銃声が響いた。
犯人は搬送先の病院で死亡が確認された。なぜ、日本刀を使ってまで、傘を窃盗していたかは被疑者の死亡で不明だったが、ただ男が集めた傘は、もう少しで百本だったそうだ。