7 レンキンなのか!?
ジェイの大剣、アニーのナイフ、エリオットのセプターを順番にスノードロップが調べていく。大剣を手の甲で叩いてみたり、ナイフの切先をくいくいしてみたり、セプターをぶんぶん振り回したりした。
その間、ミチルは黙って爺さんが難しい顔のままで考えるのを見ていた。他のイケメン三人は大岩の下敷きになっているので言わずもがな。
「ふむ……そうじゃの。どれも材質がフォラス鋼に激似じゃの」
「はぁ!? マジかよ!?」
魔法に耐性があるため辛うじて喋れるエリオットの言葉で、スノードロップはようやく三人の上にある岩を消した。
「あー……しんどかったぁ」
「うむ。しかしいい訓練になった」
アニーとジェイの反応はまるで正反対。まだ気が抜けたままの二人を置いて、エリオットだけが元気に問いかける。
「セプターの宝珠もか? 元は普通の水晶だったと思うけど」
「……すでにこれは水晶ではない。フォラス鋼によく似た性質の石に変わっておる」
スノードロップの答えに、アニーは首を傾げて聞いた。
「フォラス鋼って、ナニ?」
すると珍しくジェイがスラスラと答えて見せる。
「カエルレウムで騎士に支給される魔剣の原材料だ。確かその製法を知っているのは、特別職の魔術師だけだ」
「あ、それ、わしの弟子じゃ」
「えっ!」
軽く答えたスノードロップに、ミチルは思わず声を上げて驚いた。
だがそれに何の反応も示さず、ミチルにだけ冷たい爺さんは説明を続ける。
「フォラス鋼と言うのはな、銅と錫の合金にフォラスという魔法物質を合わせたものじゃ。フォラスは元々はアルブスの魔術なんじゃが、フォラスと合金を混ぜる技術はカエルレウムの秘術。ゆえに、アルブスで魔法を学んだ者がカエルレウムに抜擢されて、その特別職に就くことが多いの」
「へえー……知らなかったぜ」
エリオットが感心するように相槌を打つと、スノードロップは少し懐かしそうな顔をした。
「まあ、それがいわゆる国交というヤツじゃ。しかし、あやつ、元気にやってるかのう……」
「あのー、俺のナイフもそのフォラス鋼ってのになってるってこと?」
アニーが手を上げて聞くと、スノードロップもそちらに注目して頷く。
「そうじゃ。お前さんのナイフ、元は別の金属じゃろ?」
「ああ、なんてことない、ただの鉄ナイフだったけど……」
「ぽんこつの剣は元からフォラス鋼じゃが、ナイフとセプターは違う。小僧が作り替えたことによってフォラス鋼にその性質を変えた。これがどういうことかわかるか?」
キランと目を光らせてスノードロップはエリオットを見た。エリオットは少し考えてから、躊躇いながら口を開く。
「ミチルが、フォラス鋼を……生成した?」
「そう。それは魔術というよりも、錬金術に近いように思う。じゃが、そうなるとひとつ問題が」
「何だよ?」
エリオットが尋ねると、スノードロップは今度はミチルに向き直って聞いた。
「小僧よ。これらの武器を手にした時、体がだるくなったり、貧血などはあったか?」
「ええ?ないと思うけど。必死だったし興奮してたから……」
「マジかよ……」
それを聞いたエリオットは少し青ざめていた。その様子にミチルは急に不安になる。
「な、なに? エリオット?」
「錬金術ってのは、基本等価交換なんだよ。何かを錬成するには代償がいる。それは物質の時もあるし、術者の生命力で錬成することもできる」
「う、うん……」
ミチルのプレイしてきたゲームにももちろん錬金術は出てくるけど、確かに材料を集めて別の物を作る。エリオットはその事を言っているんだろう。
「あの時、ミチルがセプターの水晶をフォラス鋼に変えたとするだろ? けど、どう見てもそれは等価交換じゃない。ただし、術者の生命力を足したなら説明がつく。でもミチルは別に生命力を使って具合が悪くなった風はなかった」
「え、あ、そう……ね?」
話が難しくなって首を捻るミチルに、スノードロップが追い打ちをかけるように言う。
「ぽんこつとナンパの武器は失われた状態からフォラス鋼を生成したんじゃろ? おぬしはゼロから錬金したことになる。そんなことはこの世界の人間には不可能じゃ」
「つまり、ミチルが超スゴイってこと?」
アニーが暢気にそう聞くと、スノードロップはシラーとした目で答えた。
「スゴイどころか、理解できん。その事からも小僧がチル一族である可能性が濃厚になる」
「ほほぉ……」
ジェイも少し興奮しながら頷いていた。
だが、当のミチルは結局そうなるのかと落胆していた。
「違うと思うけどなあ……」
「わしの所見を述べてもいいかの?」
スノードロップが遠慮がちに言う。今までの横柄な態度とは打って変わったものだった。
「何だよ?」
エリオットもその様子に少し姿勢を正した。そしてスノードロップはえへん、と咳払いしてから全員に向けて言った。
「チル一族は救世主ではない。世界に異変が起こった時に訪れるとはすなわち、チル一族の存在こそが世界を危機に落としているんじゃ」
「ええ!?」
その場の者達の困惑にも構わず、スノードロップは朗々と述べた。
「チル一族はカミの遣いではない。凶兆の証じゃ」