第20話
レイヴンはフェネックギツネたちがいたところに降り立った。彼らはほとんど一瞬の間に土中へ潜り込んだから、そこからそう離れていない地下に巣があるはずだと予測したのだ。
「おーい。すいませーん」レイヴンは声を張り上げた。「フェネックギツネの皆さーん」
返事はない。しばらく待つも、何かが近づく気配も感じられない。どうやら、我々は『敵』と認定されたようだ……
「何かご用?」だが突然声がかかり、レイヴンは上に飛び上がった後声のした方を見た
フェネックギツネだ。一頭のみ、レイヴンたちのいる場所から数メートル離れたところに座っている。いつ出現したのだろう。
「あ、あのぼくは、レイヴンです」ともかくもレイヴンは自己紹介をした──次に何を言うべきか超高速であれこれシミュレートしながら。「突然、すみません」シミュレートシミュレート。「いくつか、お訊ねしたいことがありまして」シミュレートシミュレートシミュレート。「少し、お時間いただけますか?」
「──」フェネックギツネは即答せず、利発そうな目でじっとレイヴンを見た。
その間も怠りなく、シミュレートシミュレートシミュレートシミュ
「あなたは、タイム・クルセイダーズ?」フェネックギツネがそう訊いた。
「ええ、ぼくはタイム・クルセイダーズの」
「違うよレイヴン」
「違う違う」
「あはははは面白い」収容籠から動物たちが一斉に声を挙げた。
「あっ、いえっ、ぼくは違います」レイヴンは収容籠とフェネックギツネとの間で激しく視線を往復させながら叫んだ。「タイム・クルセイダーズではありません」
「違うのね?」フェネックギツネは──多少苛立ちを表情にちらつかせながら──確認した。「それで何のご用?」
「あ、はい、あの」レイヴンは混乱の渦に巻き込まれぬよう、大気の分子を大きく吸い込み取り込んだ。「ぼくは──ぼくたちは、地球以外の星から来ました。仲間の動物を探しています。何か情報をお持ちではないかと」
「情報──その仲間の動物についての?」また確認される。
「はい」レイヴンはさらに大気分子を取り込む。「端的にいいますと、最近見慣れない動物を見かけませんでしたか?」
「──」フェネックギツネは少しの間レイヴンから視線を外し、考えている様子を見せた。「いいえ。特に何も見ていないわ、変わった生き物は」
「そうですか」レイヴンはがっかりするよりも何故か安堵の方を大いに感じたのだった。「わかりました、ありがとう」上空へ飛び上がろうとする。
「よかったらその動物の特徴を教えてもらえるかしら」フェネックギツネが下か見上げてそう声をかけた。「今後もし見かけたら、報せるわ」
「え」レイヴンはつい上昇を止めて地上を見下ろした。「でも、どうやって?」それは純粋な疑問の念からきた自然な質問だった。「ぼくたちはもうここから立ち去りますよ」
「まだ地球から外へは行かないのでしょう?」フェネックギツネは少しだけ首を傾げた。
「え、ええ、それはもちろんまだ」
「それなら海水を使って通信ができるわ」フェネックギツネは頷いた。「鳥に伝えたら鳥が海に住む動物に伝えてくれる。どこにいてもすぐに情報を送れるわ」
「へえ」レイヴンは思わず感動めいたものを覚えた。「じゃあ、レッパン部隊とかにも?」
「レッパン部隊を知っているの?」フェネックギツネは問いかけた。「アジアにも行った?」
「あ、いえ」レイヴン触手を振った。「会ったことはないですが、その存在だけを耳にしたので」
「そう」フェネックギツネは淡々と答え「それでお仲間の特徴は?」淡々と本筋に話を戻した。