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感染者狩り

その日の朝は、いつも通り、バス停で、バスが来るのを並んで待っていた。
すると、「感染者だっ!」と大声で叫んで一人の女性を追いかけている群衆が見えた。何事かと、バス停でバス待ちをしていた人たちが、そちらを見る。だが、私以外の人は、何も見なかった風に俯いたり、視線をそらした。で、目をそらさなかった私にその女性は、すがるように駆け寄ってきた。
「た、助けて、私、感染してない」
走っていたせいで息が荒く、顔が赤いが、何かの病気のようには見えない。たとえ病気でも、駆けるくらいの元気はあるようだ。すると、群衆が追いつき、その彼女を私から引き離し、乱暴に地面にうつ伏せにさせる。
「あ、あんた、この女に触られたな」
「感染者だ。その子も感染してるぞ」
「はぁ?」
群衆は、私も取り押さえようとする。
だが、私は、咄嗟に叫んだ。
「近づかないで、その人から手を放しなさい! あんたたちも感染したいの」
自分でもよく思いついたというくらい効果があった。
群衆は、私と、その女性との距離を開けた。
「あんたたち、急いで手を洗わないと感染するわよ」
彼女を取り押さえた粗暴な男どもがぎょっと慌てて、手を洗える場所を求めて駆けだしていく。
「あんたたちも、うつりたくなかったら道を開けなさい」
残っていた連中にそう言い放って、私は彼女を連れてその場を逃れた。
後日、その伝染病ウィルスは人から人へと感染していく途中で次々と変異して、その毒性が一番弱い時期に感染して治癒し、そのウイルスに免疫ができた私や彼女のような人間を除く人類のほとんどを死滅させた。

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