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再会の店

俺は店内に入った瞬間、おっと思った。
その奇妙な店は、空席にも、料理を運んでいたのだ。客の目の前だけでなく、その向かいの空席にも料理の皿が置かれていたのである。
「お客様、当店は初めてですか?」
「ああ、なんとなく入ったんだが」
店内の雰囲気に驚きつつ、女性店員に案内されて、席に着く。
「三名様ですね。ディナーコースでよろしいですか」
「三人? いや、俺ひとり・・・」
訂正しようとして、俺は言葉を飲み込んだ。目の前に、両親が座っていたのだ。二年前に交通事故で死んだはずの両親が目の前にいる。奇妙な出来事なのだが、それを不思議とは思わず、ああ、そうか、両親と俺で三人かと納得して、俺たちは談笑しながらコース料理を食べた。他のテーブルもそうだ。料理だけで空席と思っていた席に人が座っている。
食べ終え、会計する時には、俺は一人に戻っていた。
「やっぱり、三人分か」
しっかり三人分の支払いをして、その店を去った。
ふと、また両親に会いたくなって、時々会社帰りなどにあの店を探す。
だが、あの奇妙な店には、もう二度とたどり着けなかった。
ま、死人に頻繁に会えるわけがないということだろう。
二度とたどり着けないのも当然と俺は納得していた。

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