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天使と悪魔

「なにを迷う必要があるの。あんたの人生、悪魔の力を借りないとパッとしないに決まってるでしょ」
「悪魔に力を借りるという意味を分かってますか、やめておきなさい」
「うるさいわね、天使。人の営業の邪魔しないでよ」
「天使が悪魔の妨害をするのは必然です」
「おいおい、いきなり、独り暮らしの男の部屋に現れて騒ぐなよ。だいたい、召喚したのは悪魔だけで、天使なんて呼んでねぇ」
「いえ、闇に落ちそうな魂を救うのは私たち天使の使命ですから」
「じゃ、聞くが、天使は俺に何をしてくれる」
「あ、そういうことなら、悪魔なら望むままに、あんたのどんな欲望もかなえてあげるわよ」
「いえ、それはダメです。欲望のままに生きたら、その先にあるのは破滅だけです」
「破滅してもいいじゃない。ただ生きて、そのまま老いて、認知症になって、何もないまま善良なボケ老人で死ぬのが幸せだって言いたいの?」
「ええ、そうです。平凡で身の丈に合った人生こそが、最高の幸せですわ」
「おいおい、俺はこの平凡でくそつまらない人生を変えたくて悪魔を呼んだんだ。何もない平凡なボケ老人なんて最期、ごめんだぜ」
「そうそう、世の中、欲望に忠実な方が楽しいものよ。禁欲の天使なんてお呼びじゃないのよ」
「なっ!」
「そうだ。破滅してもいいから、俺は悪魔を呼んだ。それぐらいの覚悟はできてる」
「分かりました。勝手になさい」
「やっと消えたか・・・」
「さ、悪魔に願いを」
「どんな願いでもいいのか」
「ええ、どうぞ」
「あんたすごい美人さんだよな」
「え、そりゃ、悪魔ってのは、もともと、天界を追放された堕天使や、新興宗教のキリスト教が古い土着の神々を悪魔と呼んで蔑んだだけだから、醜い姿をしてるってのはキリスト教のプロパガンダで、実物はご覧のとおり」
「じゃ、あんた俺の奥さんになってくれ」
「は?」
「おれ、今までずっと独りで、しかも童貞だからさ、本当は美人の奥さんと結婚させてくれと頼むつもりだったが、あんたと結婚したい」
「いや、それはさすがに・・・」
「あら、いいじゃありませんの。悪魔はどんな欲望も叶えるのでしょ?」
「げ、天使、あんた戻ってきたの!」
「ええ、面白そうですから」
「なんだよ、どんな願いでもいいって言っただろ」
こういう無理難題を相手に押し付けるというのは、漫画やラノベで読んだことあるネタだ。俺自身に特別な力を与えてもらうより、特別な力を持った相手をそばにはべらせるというヤツだ。
「ちょ、ちょっと・・・」
「天使も祝福します。いい奥さんになってあげなさい」
「う、うるさいわね」
「悪魔は魂を代償に、人間のどんな欲望を満たしてくれるんだろ」
「いい度胸してるわね、あんた、ろくな死に方しないわよ」
「ただ命を代価に何かを得るよりも、その方が面白そうだろ」
たとえ悪魔でも、美人の奥さんを得られるなら、悪くない。一生、独身の童貞よりマシだ。

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