演技派猫
「ぶっさいくな寝顔だね~」
私を心地よい眠りから覚ましたのは、やはりあのチンチラだった。
いきなりそんなことを大声で、しかも耳元で言ってきやがった。
重い瞼を開いて目を向けると、うどんはニヤニヤしながら私のことを見ていた。
「はっ。ぶっさ」
うどんは更に挑発してくる。
しかし私は反撃しない。
そんなことより笑いを堪えるので必死だった。
ここにはカメラが向いている。
一瞬視線をやってみたが、私が寝ている間にうどんが動かしたような形跡は見られなかった。
つまりうどんは今がっつりカメラに映ってしまっている。
私がカメラの角度調整をした理由にはこれもある。
うどんをカメラに映させることで、うどんがケージを抜け出していることをご主人に知らせるということだ。
そうすればこいつのアリバイを木っ端微塵に粉砕することができるのだ。
ぶはははは!
ざまあみやがれ!
現時点でほぼ私の勝ちみたいなものなのだが、そんなこととは露とも知らず、うどんはいつものように偉そうな態度で私を罵る。
「あっれ~。反撃もできないのかなぁ~。こんなに体格差があるのに。ほら、かかってきなさいよ」
そう言って私の顔をペシペシ叩いてくる。
これはいつものことだ。
こいつは私が手を出せないのを知っているから、一方的に攻撃してくる。
いくらムカついたとしても手を出せば負けだ。
私は今日で最後になるだろうから、今日まで頑張って耐えるぞと心に誓っていた。
しかし、今日に限ってめちゃくちゃ叩いてくる。
「ほらほらどうしたよ! かかってこいやぁ! へいへいへい!」
なんでこいつがこんなに調子に乗っているのかといえば、最近私の体調が悪かったからだ。
正確にはそれは演技で私は別に正常なのだが、弱ってると勘違いしているうどんは輪にかけて調子に乗っている。
なぜ私が弱っている演技をしているのかといえば、当然今日という日のためだ。
弱みを見せれば、こいつは必ずそこを叩いてくる。
こいつの腐った性根を引き出せるのだ。
そしてそれをカメラがばっちりと記録している。
笑いが止まらない。
もちろん心の中で笑い転げているというだけで、実際はそんなことおくびにも出さずに
「やめて。ほんとにきついの。ほっといて」
と、弱り切ったセリフを吐いているのだが。
私ってばほんと女優。
人間に生まれてたらアカデミー賞待ったなしだっただろう。