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11 バチなのか!?

「お前はおれにポーカーで負けて、キス30回の借金があるんだよな?」

 突然25歳の姿になったエリィ、もといエリオットはミチルを組み敷いて笑う。その顔は完全に捕食者のそれであった。
 ヘビに睨まれたカエルよろしく、ミチルは動けないまま目を泳がせる。

「それはエリィが勝手に……」

 ミチルが言い終わらないうちに、エリオットはまた綺麗な指でミチルの頬をなぞった。
 それをされるとミチルはゾクゾクが止まらない。

「ふうん、どうせコドモの戯言だって聞き流したんだろ?残念だったな、大人になったおれは余裕で実行するけど?」

 不敵に笑ったエリオットはその綺麗な顔を近づけてまずミチルの頬にキッスした。

 ぶっちゅうううう……!

「ぎぃやああああ!」

 キスというより、かぶりつくようなエリオットの唇の感触に、ミチルは思わず悲鳴を上げる。
 これはやばい。このままいけばあらゆる所がぱっくんちょされる!

 ちゅっちゅっちゅーの、ちゅっくちゅくちゅー♡

「ほぎゃああああ!」

 顔中に振ってくるキッスの雨に、ミチルは心臓が木っ端微塵に砕けた。

「……お前ムードねえな。もっと色っぽい声で鳴けよ」

「鳴くかあ!セクハラエロギャル男がああ!」

 冗談じゃない。理性を保つには汚い声を出し続けるしかないのだ。
 その気になったら負けだ。ミチルは動かない体の代わりに一生懸命変顔で対抗した。

「あ、そう。なら根比べだな。あと23回、きっちり払ってもらうからな!」

 エリオットはニヤァと笑って、今度はミチルのパーカーをたくしあげた。

「すべすべのーお腹にぃー」

 むっちゅっちゅーのちゅー

「ぎょわああああ!」

 耐えろ!耐えるんだオレ!汚い声を出し続けろ!

「腰周りもいっちゃおっかなー」

 ちゅちゅっちゅー、ぺろっ

「ぎゃおー!おおい、舐めるのは違うだろおお!」

「うるせえな、口ごたえしてんじゃねえぞ、借金小僧が」

 さすがに腰はまずい。ミチルは身を捩って抵抗した。が、エリオットはそれすらも利用してミチルの体をひっくり返した。

「……お前、男のくせに柔けえ背中してんなあ」

 肩甲骨周りにむっちゅっちゅー

「にゃああああ!」

 ミチルは背筋に走るゾクゾク感に耐えようと頑張った!だがもう汚い声が出てこなくなってきた。
 エリオットはミチルの背中をちゅっちゅ、ちゅっちゅしながら左手をスルッと胸元に差し込んだ。

「ああっ……!」

「!」

 とうとうミチルは甲高い声を出してしまった。それに煽られたエリオットは耳元で甘く囁く。

「やればできんじゃねえの……なあ?ミチル……」

 やだあ!オレはとうとうここで王子様の慰みものになるんだあ!
 この世界に来てから、確かにオレはイケメンにうほうほしてセクハラ発言をかましてきたけども!
 今までのバチが当たったの!?

「楽にしてろよ……優しくしてやるからさ……」

 ヤダァ!
 怖いよ……

「うっ……ううっ……」

 ミチルの目からは大粒の涙がこぼれていた。
 怖くて、それから情けなくて。
 ちっぽけで非力な自分がどうしようもなく憎くて。

「……」

 ミチルが肩を震わせて泣くので、エリオットはゆっくり体を離した。

「ふぅう、ううっ……うっ!」

 ミチルは突っ伏して声を殺して泣いた。
 しゃくり上げるのが止まらない。けれどエリオットにこんな顔は見られたくない。
 情けなく、恥辱にまみれた顔なんか。見せてやらない。

 少しだけの沈黙。ミチルのしゃっくりの音だけが部屋に響いた。

「……わりぃ、やり過ぎたよ」

 エリオットは沈んだ、けれど優しい声でミチルの頭を撫でる。

「ふぐっ!ううっ、ひぐっ……!」

 そんな声をかけられたら余計涙が出る。イケメンの声はほんとに腹立たしい。

「ゴメン、ミチル。もうやめる」

 エリオットはそう言いながら、めくれ上がっていたミチルのパーカーを元に戻した。

「だから、泣き止んでくれよ。そんで起きてくれ……」

「……ぐふっ」

 こんなミチルにも男としてのプライドがある。相手が折れたのだからいつまでも泣くのは卑怯だ。
 涙と鼻水を垂れ流しながら、ミチルは上体を起こしてエリオットをギロッと睨みつけてやった。

 ビビるかと思ったら、エリオットはそんなミチルを見て愛おしそうに吹き出した。

「フッ!ブスだなー」

「おっ、おまー、のっ!せい……ぐふっ」

「……悪かったよ」

 エリオットはミチルに手を伸ばし、涙を指先で拭う。その体温がとても優しくて温かかった。

「あーそろそろ夜が明けるな」

 白みはじめた窓を見ながらエリオットは残念そうに言った。

「朝日を浴びたらおれはまた15のガキに逆戻りだ」

「そ、そうなの?」

「だからさ、ミチル……」

 エリオットは少し躊躇いながらも、ミチルを引き寄せる。そんな切ない顔をされては、ミチルも抵抗できなかった。

「もう少しでまた魔法がかかってしまう。それまで抱きしめさせてくれよ……」

 ふわっとミチルの体を包んだエリオットは、そのままベッドの上に倒れ込んだ。ミチルの髪の毛に顔を埋める。

「エリ……オット」

「うん。忘れないでくれよな、おれの名前……」

 ばいばい。

 エリオットの優しくも悲しいその一言を聞いた後、ミチルは急に体がだるくなって意識を手放した。

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