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10 エリオット

「……チル」

 誰?

「……チル」

 オレを呼んでる?それとも──

「ん……?」

 ミチルは仄かな灯りを感じて目を覚ました。ベッド脇の小机に火の灯ったランプが置いてあった。
 一体誰が?エリィが?
 隣に寝ているはずのエリィに視線をやろうとして、ミチルは自分の体が動かないことに気づいた。

「んんっ!?」

「ミーチルッ!」

「……誰!?」

 ミチルは全く知らない大人の男性に組み敷かれていた。右手も左手もがっちりと押さえられて、下半身もがっつり足で挟まれてホールドされている。

「えっ、ほんと誰!?エリィ?エリィは!?」

 ミチルは混乱した頭で思う。泥棒?エリィは無事?そこまで考えて血の気がサッと引いた。
 だがミチルのそんな状態を構わずに、覆い被さる男性はその顔を更に近づける。

「……おれが誰だかわからない?」

 その顔を見て、ミチルは息を飲んだ。
 超・絶、イケメンじゃああああ!

 長めのショートボブで群青色のサラサラヘア。
 透き通るような白い肌。輝く青い瞳。

 ん?
 このカラーリング、どこかで見なかった?

 まさかまさかまさか。
 でもでもでも。
 ミチルは恐る恐る、あり得ないはずの答えを述べる。

「エ……エリィ?」

 ミチルがそう言うと、その男性はにまぁと笑って万歳するように起き上がった。

「当たり!やっぱりミチルは愛いヤツだなっ!」

「えええええっ!!」

 解放されたミチルも驚きで起き上がった。そして目の前のエリィ(?)のサイズ感を確認する。
 でかい!
 大人!
 ──そしてイケメン!!

「ほ、ほんとにエリィ……?」

 どうしてこうなったのかサッパリわからず、ミチルは呆然としていた。
 エリィ(?)は長い足を軽く組んで、ニヤリと笑って言う。

「この姿の時はエリオットって呼べよ。おれはエリオット・ラニウス。この国の第五王子だ」

「ちょ、ちょっと待って、どういうこと!?」

 あのエリィが、このエリオットってこと!?
 なんで急に大人になったの、そしてイケメンになったの!?

 ミチルの反応を楽しそうに眺めながら、エリオットは笑って言った。

「今夜は新月だろ。月が出ない夜だけ、おれは元の姿に戻れるんだ」

「も、元の、姿……?」

15歳の僕(エリィ)は仮の姿。本当のおれ(エリオット)は25歳なんだな、これが!」

「ええええっ!!」

 イケメンに遭遇したのと、衝撃の事実のダブルパンチでミチルの心臓はとっくに砕けていた。




「ええっと、つまり、エリィが受けたお仕置きは部屋に軟禁だけじゃなかった……の?」

 エリオットから説明を受けても、ミチルはまだ信じられなかった。

「そうなんだよ、あのクソ親父の野郎、ご丁寧に魔法でおれの時間まで止めやがった」

「じゅ、十年も……?」

 ミチルが恐る恐る反芻すると、エリオットは少し顔をしかめて頷いた。

「そ。おれが非道の限りを尽くしたのが15の時。親父が激オコで『子どものままで反省しろ!』っつって十年経っちまった。マジだるい」

 口調がガキ大将からギャル男になってるんですけど……。
 目の前のエリオットは完全に「大人になったエリィ」なので、ミチルは信じるしかなかった。

 ていうか、十年!?
 ミチルはお仕置きで閉じ込められていると聞いた時、せいぜい半年とかそれくらいだろうと思っていた。
 15歳の見た目のエリィのことだと思っていたから。

 だが、十年。
 親が我が子に魔法をかけて、そんなに長い時間閉じ込めるのか?
 完全に常軌を逸している。ミチルはただただ驚いた。王族という特殊な人種はこうなのか?と。

「驚いたか?超絶美少年のエリィが、実は超絶貴公子のおれだったことに」

 呆けたままのミチルに、エリオットはニヤと笑って言った。
 ミチルはまとまらない考えそのままに口を開く。

「驚いたけどさ……それよりも、親が子どもを十年も閉じ込める?確かにエリィは悪い子だったのかもしれないけど、親が十年も怒り続ける?」

 首を捻り続けるミチルに、エリオットはフンと鼻で息を吐きながら言い捨てた。

「だからクソ親父なんだろうが。ミチルみてえな一般ピーポーには王族の気持ちなんかわかんねえだろ」

「それはそうかもしれないけどさあ……でもさあ……」

「そんなことより──」

 エリオットはミチルの疑問を遮って、その顎を親指で掴んだ。

「!」

 ぎょへええ!今度はまごう事なきイケメンに顎クイされたあああ!
 ミチルの頭は一気に興奮に支配される。

「お前、わかってる……?」

「な、ななな、何が!?」

 エリオットはその美しい顔を近づけてミチルに迫ると、甘い声で囁いた。

「おれの正体を知ったからには、二度と離さないぜ……?」

「へっ……?──うわあっ!」

 ミチルは再びエリオットに組み敷かれた。覆い被さるエリオットはそれはもう綺麗な顔と綺麗な指でミチルの頬をなぞる。

「ミチルは、おれに借金があったよな?」

「な、ななな……」

 ほっぺをなでなでされて、体中に走るゾクゾク感に耐えながらいるミチルに、エリオットはにまぁと笑って更に顔を近づける。

「キス、30回♡」

 きえええええっ!

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