第3話
今回の旅行もそろそろ半分を終えようとしていた。塩尻まで20
二年先のことなど正直わからないものだ。今の自分の気持ちとその時の自分のそれとが必ずしも同じとは限らない。未来とは、予測不可能な要素もあり得ることは、少年も重々承知していた。だからこそ口外はしなかった。この世にはなにごとも思い通りにならないことがあることもなんとなくわかっているつもりだった。それは、なんとなくそう思うという程度のものであり、経験的に学び取ったものではなかったのかもしれない。そんなことをぼんやりと考えながら少年は、窓の外を眺めていた。
この辺りの道路は北北東に向かった上り坂だった。ガードレール越しに、道路と並行して川が流れているのが見えていた。若い芽の夏草が、川から道路との間に生い茂っている。彩りの豊かな小さな花も咲いていた。
祖母は変わりないだろうか。早くに夫を亡くした父の母のことを少年は、なにげなく考えていた。
一昨年会った時は、八十六歳とは思えないほど元気で畑仕事をして、少し訛りや方言でわからない言葉があったものの、驚くほど声が大きく、父に似て優しげな目で少年や妹の話を聞いてくれた。昨年はついて行かなかったが、妹の話では相変わらず元気とのことだった。しかし、年齢のことを考えると一年のブランクはやはり気にかかった。もう年なのだからゆっくりと静養すればいいのにとも思うのだが、昔の人というか田舎の人というか、非常に
道路は緩やかな左カーブを描いていた。少し身体が右側に寄りそうになりながら、少年は父と母のことを考えていた。
父は長野県で生まれ、母は大阪府で生まれた。そんな二人が出会ったのは、父が大阪の職場で働くために一人で引っ越してきたからなのだが、それがなければ二人が出会う可能性はほぼなかったのではないか。そんな二人が出会って自分と妹が生まれたのは、少年にはほとんど奇跡と思えるほどだった。そうなっていなければ、今の自分は存在自体していなかっただろう。この世には不思議な
少年は首をひねった。
運命という便利な言葉は、人から考える意欲や慎ましさを奪ってしまう。思考停止してしまうと、選択や行動が軽くなりはしないだろうか。なにをやっても運命なのだからの一言で片づけられてしまうのは、とてもつまらなくはないか、虚しくはないか、それで本当に生きているといえるのだろうか。そんなふうに疑問に思ってしまう。ひるがえって自分はどうだろうか。仕方がないと諦めて、ただ流されてはいないと胸を張って言いきることができるだろうか。
少年は目を閉じた。いろいろな感情が胸の内に去来した。物心ついてからの記憶ではあったが、幾つもの選択、幾つもの行動。あとで間違っていたかもしれないと思うことがまったくないとは言いきれなかったが、できる限り努力したつもりではある。
少年は目を開いた。少なくとも自分が選んだ選択に後悔や失望はなかったと思いたかった。今はまだそれで充分ではないかと思うことは、逃げているのだろうか。軽輩の少年には、まだわからなかった。