34話 水面下の不穏
モンスターは倒した時に身体が残ることが多いが、大きなダメージを与えてオーバーキルしてしまうと身体を構成していた魔力の結合が急速に解かれ、肉体としてではなく元の魔力として霧散してしまう。
ただ、心臓部であり核となっていた魔石はそれでも残るのと、他にもモンスターが戦いや生活によく使っていた牙や爪、体の核である魔石から離れた尻尾や末端の毛、使っていた武器などは消えずにドロップすることが多い。
* * * * *
メーシャたちはオーガ討伐を完了した後、後ろで見張りをしていたデイビッドと合流。これ以上同じような被害を出さないために、オーガを縄張りから追い出した犯人を調べることにしたのだった。
デイビッドはスキャナーのような魔力機械を出し、オーガのドロップした魔石、武器、ドロップした牙をはじめ、洞窟の壁や地面、そこの空気などを順に読み取っていた。
「ふむ……おかしな反応が出ているな」
デイビッドが渋い顔で呟く。
「何か変な反応でも出たの?」
メーシャはデイビッドの持つスキャナーの画面を覗いた。
「傷跡を見て何によって付けられたものかが分かるように、魔石をスキャンするとモンスターが経験した直近の大きな出来事がある程度分かるんだ。それでオーガを追い詰めたモンスターが何か、一応は出たんだが……どうもな」
「……オークって書いてあるね。豚っぽいあのオーク?」
メーシャがデイビッドに確認する。
「そうだ。基本的にオークはオーガより格下でな。身体もオーガが2mくらいに対して、オークは大きくてもせいぜい1.5m。どちらも魔法が使えず、身体能力はオーガが上だ。
もしはぐれオーガがいても、オークが群れで行動していても襲ったりはしないんだ。そもそもオークは穀物や虫を食べるモンスターでわざわざオーガを襲ってまで食料確保する必要がない。それに、他のモンスターから巣や子どもを襲われない限り反撃すらせず逃げる慎重さなんだよ」
「じゃあ、1度オーガがオークの巣をを襲ったから反撃にあった……可能性はないんでしょうか?」
ヒデヨシが首を傾げながら訊いた。
「反撃した可能性はあり得なくはない……が、先程も言ったようにオーガは格上。それに今回のオーガは群れで行動している。いくらオークが群れで行動しようとさすがに敵うはずがないんだ。……いや」
デイビッドがそこまで言って、ふと何かに気が付いたように『……そうか』と言葉をもらす。次の瞬間、
「ど、どしたの……?」
メーシャの言葉も耳に入らないくらいデイビッドは情報の精査に集中していたが、5分ほど経ってからデイビッドが険しい表情で顔を上げた。
「──
「オークキング?」
メーシャが首を傾げる。
「オークが占領していた古い砦がラードロに奪われた話は知っているか? あそこのオークはアンテナを取り付けられた"タタラレ"にされ、ラードロに日夜モンスター実験をされているんだ。そして、今朝シタデルに入った情報によると、とうとう
「つまり、普通じゃないオーク……オークキングによってオーガが襲われたってことですか?」
「確定ではないが、十分ありうる。オークには階級があってな、下から普通の"オーク"、知能と身体が少し大きくなった"ハイオーク"……これでもオーガには敵わない。が、その上には"オークキング"が存在する。
オークキンングは体高が2mを超え、全身をハリのような硬い毛が生え、知能もニンゲンや獣人なみでオークたちの群れを統率できる。それに……オーガの群れどころか、単眼の巨人型モンスターのサイクロプスとすら渡り合える強さなんだ。
……最近砦周りが静かだなと思ったが、まさかオークを上位種に進化させていたとはな」
「サイクロプスか……。序盤を越えて良い気になってる初心者に、ケタ違いのダメージを出して中盤の洗礼を与えるヤバいモンスターだね。あれで補助魔法の大切さを知ったよ」
メーシャの知識はゲームのものだったが……。
「よく調べているな、その通りだ。サイクロプスの攻撃は星4前衛冒険者でもひとりでは受けきれないほど強力。だから、メイジや回復魔法士などが使える攻撃弱体化魔法、もしくは防御強化魔法を使って衝撃を軽減して戦うのが基本なんだ。ただ、補助魔法をかけていてもたまに攻撃が直撃して大ダメージを受けることがあるから、回復魔法も必須と言える」
どうやらこの世界フィオールでも同じ攻略法のようだ。
「ふふっ、もしかしたらお嬢様のゲーム知識が他にも役にたつかもしれませんね」
ヒデヨシは楽しそうにメーシャに耳うちする。
「ね」
「では、調査はこれくらいで良いだろう。オークの件は任せてくれ。俺が預かって本部に報告しておく。まあ、アレッサンドリーテ軍も噛んでいるはずだから、そことどう連携とるかも決めないとな。この先どう出るかはまた後日知らせよう。……お疲れ様」
デイビッドはパルトネルを操作してシタデルにクエスト完了した旨を知らせる。これで後は帰るだけだ。
「……それにしても、君たちなかなか強かったな。さすがにあのカーミラ団長が自慢してくるだけある」
そういうデイビッドの表情が少し柔らかくなっている。
「自慢してくれてたの? なんか嬉しいんだけど! ……てか知り合い?」
「知り合い……という程ではないが、数年前に1度手合わせさせて頂いてな。あの試合自体は俺が勝ったが、カーミラ団長が鬼のチカラを使っていたらどうなっていたか……。また戦いたいものだ」
デイビッドは楽しそうに語る。戦い自体が好きなようだ。
「へぇ〜! あーしも見てみたいしお手合わせしたいかも!」
「熟練者の戦い、僕も興味ありますね」
「機会があればな。……そうだ、熟練といえば。メーシャさんもヒデヨシくんも、また暇ができたら俺の所に来るといい。トリッカーや勇者の専門的な技術は教えてやれないが、戦い方の基本や近接戦闘の知識は教えてやれるはずだ」
「おお! ありがたい」
「良いんですか?」
デイビッドはギルドマスターで多忙の身。それをメーシャとヒデヨシの為に使おうというのだから、ありがたい申し出である。
「構わない。その代わり、強くなったら手合わせしてもらおうかな?」
「じゃあ、早くデイビッドさんを満足させられるくらい強くならないとね!」
「僕も頑張ります!」
「楽しみだ。……お、街が見えてきたぞ」
こうして初研修を終了したメーシャたちなのだった。