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33話 風の矛

 縄張りから追い出されたオーガは洞窟に移り住んでいた。家畜を襲うために集落に侵入、そして人の前に姿を現している以上、放置していれば家畜を食いきった後人を襲う可能性は高い。
 オーガを奥地から追いやったモノの正体は依然掴めていないが(キマイラが暴れた地域とは別)、まず目の前のオーガを倒して周辺の安全を確保するのが最優先だ。
 そして、その後この洞窟を調べてオーガを追い詰めたモノの手がかりを探す。

 * * * * *

 デイビッドが茂みや岩陰を流れるような忍び足で移動して少しずつ洞窟に近づいていく。メーシャとヒデヨシはまず待機だ。

「グルフゥ……」

 デイビッドがすぐ側まで来ていたが、足音どころか鎧のこすれる音すら出していないのでオーガは全く気がついていない。

「──…………!」

 デイビッドは5m程度の距離まで来たところで足を止め、口を素早く動かして速度アップの魔法を自分にかける。──刹那。

 ──斬!!

 オーガが反応する間も無く袈裟懸(けさが)けに一刀両断。オーガは身体を構成していた魔力が霧散し、核となっていた魔石がドロップ。
 デイビッドは切り抜けとともに勢いをそのままに半周回転して剣とは逆の手で魔石をキャッチ。そして、半周回転しながら勢いを弱め、バスターソードを背中に背負い直した。この一連の流れを、デイビッドは一度も音を立てることなく2秒で完遂したのだった。

「……おお」

 素人目に見てもデイビッドの動きは洗練されているのが分かった。

「……お嬢様、行きましょう!」

 ヒデヨシが感心しているメーシャに声をかける。

 そう、今のは群れの他のオーガに気付かれることなく見張りを倒しただけだ。メーシャたちは見つからずにスニーキングするのは慣れていないため、今回はお手本を兼ねてデイビッドが先陣を切ったのだった。

「そうだった……!」

 そしてメーシャたちの役割は、まだこちらの存在を知らない洞窟内のオーガを急襲することだ。
 ただ、洞窟内で大暴れをしたら中が崩れて仲間ともども生き埋めになってしまうのと、囲まれる心配は少ないものの敵は全て前から現れるので、戦い方を考えなければ押し返される。
 ゆえにそれを踏まえて、立ち回りを考えながら素早く、かつ確実にオーガを倒す必要があるだろう。

「君たちの実力を見せてもらうために、危険と判断した場合を除き俺は手を出さん。あと、今回は研修という事で出口の確保と後ろの見張りはさせてもらうが、本格的にクエストをするようになったら自分でするんだぞ。……では、準備は良いな?」

「はい」

「うん」

「……よし。健闘を祈る!」


 ● ● ●


 メーシャたちは洞窟に突入した。

「ところどころ松明(たいまつ)が置かれていて明るいですね」

 オーガはある程度の知能があり、松明のほか木や石でできた簡易的な武器を作ることができる。

 その武器はヒトが作るものに対して質が低いものの、卓越した筋力や身体能力のおかげで鋼の武具を身につけた戦士以上の破壊力を放つことができる。
 オーガの恐ろしいところはパーティですら1体で返り討ちにしてしまう
 そして、オーガの恐ろしいところはそれだけに留まらず、初心者を抜けた星2冒険者パーティなら1体で返り討ちにできる強さを持っていながら群れで行動し、自分たちの持っているものより優れている武器を手に入れたら迷いなく使うしたたかさもあるのだ。

「……いたよ。休憩してるっぽいね」

 洞窟を進んで少し広くなった場所に、オーガが3体座ってなにやらモンスター語で話していた。

「では行きますよ!」

 まず飛び出したのはヒデヨシ。

「ウガ……!?」

「──毛針マシンガンです!」

 ヒデヨシが自身の毛を硬質化させ、オーガが振り向くや否や連続で発射。デスハリネズミの使っていた技だ。

「グルルゥ!」

 ダメージ自体は低いが足元をぬいつけたり、顔の近くに当たって一時的に目くらまししたり、転倒させたりと、3体とも行動を阻害されて無防備になってしまう。

『うまい! メーシャの出番だな!』

 その隙にメーシャが距離を詰めた。

「貰っちゃうよ。 ──メーシャみらくる! ってね」

 メーシャはオーラの手を伸ばし、オーガの持っている石斧を奪う。そして手に入れたと同時に魔法陣を展開して石斧を出現、流れるように無防備のオーガを切りつけた。石斧は壊れてしまったが1体撃破。残り2体だ。

「グルァア!」

 この間にオーガは体勢を立て直したようだ。

「準備完了です」

 しかし、ヒデヨシも体勢を立て直して2対2の状況になる。メーシャが前に出ている間にエネルギーを貯めていたようだ。

「じゃあ、あーしは左いくね!」

「では僕は右を!」

「ガルルア!」「グルルオ!」

 2体のオーガは同時に目の前の敵に突撃する。

 武器がなくともオーガのパンチは鉄の鎧を貫き、その蹴りは鋼の武器も正面から叩き潰すほど。普通の初心者冒険者であれば手も足も出ないが、メーシャもヒデヨシも初心者と言えど普通の枠に留まらない特異な能力者だ。

「グルル!!」

 オーガは小さな敵(ヒデヨシ)に対し、走りながら身を屈めてスライディングの要領で蹴りを放つ。

「……時すでに遅し。ですよ!」

 ヒデヨシの背中からエネルギーの翼が展開、飛翔してオーガの攻撃を華麗に回避する。そして、エネルギーを集中させてブレードを作り上げ……。

 ──斬!

「グルォオオオ……!?」

 ヒデヨシはオーガを切り裂いて撃破した。

 ● ● ●


「ガルルルォ!」

 後がないオーガは、次の一撃で決めるために全てのチカラを拳に込める。

「……あんま自信ないけど……アレ使うか」

 メーシャの回し蹴り(ジャッジメントサイス)は威力はあるが範囲が広すぎるので使えない。ゆえに、成功するか賭けの奥の手を使うしかない。

「──初級風魔法(ヒュル)!」

 メーシャは風魔法を発動……だが、それだけに終わらない。

「ぅうおおおおおお!!」

 魔法で発生させた風をウロボロスのオーラでコントロール。不安定だが、徐々に形をなしていく。

「ガルルルァア!」

 オーガの拳が今にもメーシャに迫ろうとしたその時。

「……できた!?」

 風の刃はきらめき放つ矛へと変化する。そして──

「うがて…… ──"天沼矛(アマノヌボコ)・雫"!!」

 メーシャの放った風の矛は敵を捕捉。瞬間、音速を超えたスピードの矛がオーガを攻撃する。

「……ウゴオオオォォアアア!?」

 その矛はオーガを貫かなかった。だが、その風は身体を構成していた魔力を無数に拡散。オーガは魔石を残して霧のように消滅したのだった。

「…………初めて成功……したし!」

 新技を習得したメーシャなのだった。

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