第九話††犬猿の仲
三学期の始業式でまた新たな“天使”がやって来た。
今日は始業式だからすぐに終わるはずだったけど
私達は何時もの空き教室にいた。
「何でよりによって“あいつ”が赴任してくんだ……」
遊馬先生はかなり嫌そうな声色で言った。
「俺もまさかあいつが赴任して来ると思わなかったな」
涼音まで……(苦笑)
「新しい先生も“天使”みたいだけど仲悪いの?」
ここまで嫌そうにするってことは
仲が悪かったのかと思った。
「いや、仲が悪いというより相性が悪いって方が
表現的には合ってるかな」
“相性”?
う~ん、遊馬先生が『サリエル』で
相性が悪いとなると……
「漣先生って『ユースティティア』だったりする?」
新しい先生の天使名は訊いてないけど
『正義』の意味を持つ『ユースティティア』なら納得がいく。
「正解、まぁ、犬猿の仲だな」
ある意味正反対だもんね。
「なるほどね(苦笑)」
兎並だから今更“天使”が増えようが“悪魔”が増えようが
驚かないし来年にはまた新たな種族が増えるかもしれないけど、
そっか、『ユースティティア』と『サリエル』ねぇ……
『サリエル』だってある意味〝正義〞だと私は思っている。
色々な葛藤もあるはずで……
《神の治癒》の意味を表す『ラファエル』の名を
持ている涼音は天界でも平等だったんだろうな。
話していたらいつの間にかお昼が近くなっていて
それに合わせるように私のお腹が鳴った。
「盛大に鳴ったな(笑)」
私のお腹の音で遊馬先生が笑ってくれてよかった。
「流石にお腹空いたから帰るね、また明日」
二人に挨拶をして空き教室を出た。
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「お姉ちゃんお帰り」
家に着くと先に帰って来ていた茜が食パンを焼いていた。
「ただいま、茜もお帰り。
新しく来た先生も“天使”だったね。
『ユースティティア』らしいよ」
漣先生の天使名を教えてあげると茜はなんとも
いえない
やっぱりそういう
「遊馬先生とは犬猿の仲だって」
悪の道に走った
堕天させる役目とはどんなに辛い役目だろう。
一説には『サリエル』も“堕天使”なんて
言われてるけど私にはそう思えない。
それに“堕天使”ならあんなに綺麗な
純白の羽を持っていないと思う。
「《正義》を意味する名前を持つの天使と
《神の命令》を意味する名前を持つ天使か……
確かに仲良くはできなさそうだね」
明日からどうなることやら……
翌日、学校に着くと例の漣先生が
風紀委員と一緒に校門に立っていた。
「おはようございます」
個人的なことはさて置き、相手が教師である以上
挨拶は怠ってはいけない。
「おはよう」
普通に挨拶できていたみたいでホッとした。
今日から通常授業だけどあいにく化学も
国語もない火曜日だ。
昼休みはどうせ空き教室で三人(時には茜も入れて四人)で居るから
授業の有無はあんまり関係ないけど
職員室でギスギスしないか心配だ。
兎並には和洋折衷の“人外”が居るわけだけど校長先生は
何であえて人間と“共存”しようと思ったんだろうか?
実年齢は知らないけど烏天狗なら
人間の醜さも愚かさも見て来たはずで、
ましてや“天使”や“悪魔”なんて
比較的近年になってから日本に入って来た
イメージだけどもっと昔から居たんだろうか?
ふと疑問に思ったけど今はそんなことを
考えている場合じゃない。
なんとなく心配になった私は一時間目が
終わった後に職員室に行くと案の定、
二人はにらみ合っていた(苦笑)
生憎と涼音は居なくて周りの先生達も困り果てていた。
「遊馬先生」
少し開いていたドアを全開にして呼ぶと
すぐに気付いてくれた。
近くに来た遊馬先生の耳元で何時もの敢て、
“何時もの”話をした。
「〚昼休み、お弁当作って来たので皆で食べましょう〛」
内容はいたって普通のことだけど漣先生から
離すにはそれで充分だった。
「わかった、昼休みに準備室に来てくれ」
答えた内容は全く別のこと。
「わかりました、失礼します」
職員室から戻る途中で涼音に会った。
私は今さっきのことを話した。
「同じ教員だからな、それこそ準備室に篭ってるならともかく
職員室じゃどうしようもないよな……
一瞬でも二人を引き離してくれてありがとうな」
涼音と別れて教室に戻り午前中の三時間をなんとなく過ごして
空き教室に行く前に国語準備室に向かった。
建前上、行かないと不自然だろうけど遊馬先生を
迎えに行くと思えばそれはそれで不自然じゃないか(笑)
二人で準備室を出て涼音が待っている
空き教室に向かった。
『涼音、お待たせ』
教師も生徒も滅多に来ない此処は静かでいい。
漣先生には見つからずに来られてよかった。
校内で落ち着ける場所だ。
“人間”の友人がいないわけじゃないけど
お昼休みは基本的に三人で
居る方が落ち着くのは二人に対して気を
使わなくていいからだと思う。
綺麗に完食してくれた二人に感謝して午後の
授業のため先に空き教室を出て
自分の教室に向かった。
五時間目は漣先生の地理だ(苦笑)