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第六話☆バレンタインは勝負時

悠緋さんも退院して、皆にマー君を紹介し一段落着いた。

理香とは、名前で呼び合うくらい仲良くなった。

「華蓮」

理香が抱き着いて来た。

『どぉしたの?』

実はねと話しだした内容は
二週間後のバレンタインの話しだった。

理香は他のクラスに好きな人が居るんだけど、
普段は自分から話し掛けられないから
バレンタインに便乗して話すきっかけが欲しいらしい。

『一緒にチョコ作る?』

そんな提案をしてみると
「じゃぁ、場所は家ね」と
言われ二度目の訪問をすることになった。

私も毎年、マー君や悠緋さんやお父さんに作ってるから
一緒に作れたら楽しいと思う。

「いいの?」

理香の目がキラキラしている。

『勿論』

二人で話してたら他の子も話しに加わり、バレンタイン前日
再び理香の家に行くことになった。

二月十三日(金)

材料を買って理香ん家へ向かった。

人数は私と理香を入れて五人。

『お邪魔します』

何回来ても(まだ二回目だけど)ビックリするくらい大きい。

明日が休みってことで理香ん家に
皆でお泊りさせてもらうことになった。

『理香、お泊りまでしちゃってよかったの?』

幾ら理香の両親が帰って来ないからってよかったのだろうか?

『いいのいいの何時も一人で
つまんなかったから皆が泊まってくれて嬉しいんだ』

そう言いながら理香が、キッチンへ案内してくれた。

まず一言、広い……

とりあえず、材料を冷蔵庫に入れさせてもらう。

作るのは、明日にした。

私はともかく、他の皆が渡せるのは明後日だから。

「佐川さんは何作るか決めてるの?」

泊まりメンバーの一人宮藤さんが訊いて来た。

『うん』

マー君には〔チョコムース〕、お父さんには〔チョコケーキ〕
悠緋さんには〔ガトーショコラ〕

そして皆には〔チョコクッキー〕を作ろうと思っている。

「あたしはまだ決めてないんだよね」

右隣りに居た海棠さんが言った。

「バレンタイン特集の本持って来たから焦らずに考えれば?」

鞄の中にあるんだと前橋さんは言った。

用意がいいなぁ。

だから、名前が恋なんて可愛らしいのに
周りからは男前って言われるんだよね。

「用意いいね」

海棠さんも思ったらしい。

「恋する女子に抜かりなし!!」

ピースしてしたり顔をした前橋さん。

『恋する女子って
前橋さん、好きな人居たんだね』

知らなかった。

「まぁね」

材料を冷蔵庫に仕舞い、
理香の部屋へと戻り前橋さんが
持って来た本を見せてもらうことになった。

「色々あるんだね」

テーブルに置いた本を広げながら理香が
感心した様に言った。

一ページ一ページめくりながら
どれがいいかなと言っている。

目が恋する乙女だ。

可愛いなぁ……

あの頃の自分を少し思い出した。

まぁ割と早く告白しちゃったからなんとも言えないけど。

皆で話していたら、メイドさんが呼びに来た。

「理香さま、お夕飯の時間ですよ」

時計を見たら、いつの間にか七時になっていた。

「分かったわ」

理香に続いて、部屋を出た。

リビングに行くと豪華な食事が沢山並べられていた。

「美味そう」

海棠さんが料理を見て嬉しそう。

でも、本当に美味しそう。

「皆、好きな席に座って」

自分の席に座った理香に言われ適当に座った。

夕飯は本当に美味しかった。

その後、皆でお風呂に入り、
理香が用意してくれた部屋へそれぞれ行った。

次の日、起きたのは平日と同じ時間。

休日にこんなに早く起きたのは久しぶりだ。

マー君と結婚してからも休日は二人して
ダラダラと寝てることが多い。

皆はまだ寝てるかな?

廊下に出てみると昨日のメイドさんと会った。

「おはようございます、佐川さま」

"さま"付けには慣れない……

『おはようございます』

「理香さまはお目覚めで、
他の皆様はまだお休みですよ」

理香も早起きだなぁ。

『今、何処に居るか分かりますか?』

「お部屋にいらっしゃると思いますよ」

メイドさんはそれだけ言うと
「仕事があるので
失礼します」と
長い廊下を歩いて行った。

トイレに行った後理香の部屋へ寄った。

『理香、居る?』

ノックしたら、中で人が動く気配がした。

ガチャ

部屋のドアが開いた。

「華蓮、おはよう」

『おはよう、理香』

入ってと言われたからとりあえず、理香の部屋に入った。

「何で私が起きてるって分かったの?」

確かにそう思うよね。

だって、今の時刻は午前六時ちょっと過ぎ。

『昨日のメイドさんが教えてくれたんだよ』

ソファーに座って話した。

「そっか、皆はまだ寝てるんでしょう?」

『うん、私も休日に早起きしたの久しぶりなんだ』

話している内に時計は七時半になった。

『皆、起きたかな?』

見に行ってみようと理香の手を掴んだ。

「そうだね」

嫌がる様子がないからそのまま部屋を出た。

私たちの部屋は理香の部屋を中心に
すぐ右隣りが私の部屋、左隣が海棠さんの部屋
私の部屋の右隣りが宮藤さんの部屋で
海棠さんの隣が前橋さんの部屋となっている。

まずは左隣隣りの海棠さんから。

コンコン

ノックしてみる。

「はーい」

起きてるみたいだ。

『海棠さん、おはよう』

「佐川さん、おはよう。

ちょっと待ってね、今開けるから」

ガチャッと音がしてドアが開いた。

「鈴見さんもおはよう」

海棠さんの格好はカジュアルだ。

因みに、理香は薄ピンクの
フリフリワンピースで私はGパンに水玉のワンピースだ。

「起きてるのは私たちだけ?」

海棠さんが訊いて来た。

『うん、多分ね』

「他の二人も起こしに行くんでしょう?」

そう言って、今度は海棠さんが私の手を握った。

空いてる方の手で理香の手を掴んだ。

最初に向かったのは前橋さんの部屋。

コンコン

私たちが海棠さんの部屋に
行った時と同じ様にドアをノックした。

ガチャッ

前橋さんは何も言わずにドアを開けた。

「おはよう、恋」

海棠さんは前橋さんを
下の名前で呼ぶんだ……

今、初めて知った。

「三人共おはよう」

前橋はTシャツに
半パンという格好だ。

身長が高いのに細くて色白な前橋さんは
そんなラフな格好でも格好よく見える。

「これパジャマ代わりだから着替えちゃうね」

そう言うと私たちを気にすることもなくその場で着替え始めた。

「ちょっと恋!!」

抗議の声を上げたのは海棠さん。

「何よ?」

前橋さんは気にせず、マイペースに着替えている。

「ほら、終わった後は琴羽だけでしょ?」

さっさと行くよと前橋さんは部屋を出た。

今日四回目のノックをした。

『宮藤さん、起きてる?』

返事を待つ。

「はいはい、どうぞ」

声を掛けると、すぐにドアが開いた。

「おはよう」

着替えは終わってたみたいだ。

ちょっと安心してしまった。

「あのさ、さっきっから思ってたんだけど、
二人も名前で呼んでいい?」

海棠さんが突然そんなことを言い出した。

『私はいいよ』

その方が何かと楽だ。

『理香は?』

「勿論いいに決まってるよ」

そして、私たちは全員名前呼びすることになった。

『じゃぁ、今から名前呼びね』

そうだ、面白いこと思い付いた。

『ねぇねぇ、誰かが苗字で呼んだら
罰ゲームってどう?』

「面白そう」

琴羽って大人しそうなのにノリがいいんだなぁ。

『理香・恋・陽菜子は?』

「いいね、罰ゲームは好きな人に告白するっていうのは」

恋が楽しそうに言った。

皆で話しながら、朝食を食べるためリビングへ向かった。

昨日の夕飯もだけど今日も朝から豪華だ……

そこで、考えた。

六人分の料理を作るとしたら何を作るだろう?

理香ん家みたいにお金持ちじゃないから
そこまで豪華な物は作れないけど、
皆が食べたい物を作るんだろうなと思った。

『ねぇ皆、今度、家に泊まりに来ない?』

朝食を食べながら話してみた。

「いいの?」

最初に答えたのは琴羽だ。

『うん、マンションだから
広くはないけど皆が泊まる部屋はあるよ』

「だって、旦那さんは?」

『事前に言っとけば大丈夫だよ。

それに、何も今日明日ってわけじゃないんだし』

カップに残ってた紅茶を飲み干してから答えた。

「じゃぁ、今度泊まりに行きたい」

元気良く答えたのは陽菜子と理香だ。

『決まりだね』

よかった、皆来てくれないかと思った。

「そうだ、何時頃作り始める?」

時計は今、九時半になろうとしていた。

「十時半くらいは?」

理香が壁紙に掛かってる時計を見ながら言った。

食休みしてちょうどいいね。

『じゃぁ、そうしよう』

皆が食べ終わり、理香の部屋に集まった。

「明日、バレンタインだね」

ワクワクした声で陽菜が言う。

「今からドキドキして来た」

そう言ったのは琴羽。

どうやら、琴羽も好きな人が居るらしい。

どんな人だろう?

とりあえず、作るまでに時間は
あるから食休みして、恋が持って来た
例の本をまた皆で見ることになった。

「そう言えば、恋と陽菜子は好きな人居ないの?」

本に目をやりながら琴羽が何気なく訊いた。

「いないよ」
と答えたのは陽菜子で
「気になる人は居るんだ」
と答えたのが恋だった。

『恋の気になる人って誰?』

同じクラスの子かそれとも、
理香みたいに別のクラスの子?

あ、もしかして、先生だったりして。

「向かいのクラス担任の左京靖紀先生」

お、当たった。

本当に先生だったとは……

左京先生は、
多く居る教師の中でも
若くてカッコイイ方だと思う。

「へぇ、恋って
ああいうのがタイプなんだ」

今まで黙って聴いてた理香が言った。

「いいでしょ別に……」

恋は照れながらプイッと顔を反らした。

理香の好きな人は左京先生とは
違ったタイプで爽やかなスポーツ少年って感じだ。

『恋、左京先生の分のチョコも作ったら?』

昨日は友チョコしか作らないんだ
と言ってたけど、
材料は沢山あるんだからいいんじゃないかと思う。

「でも、渡す勇気がないよ……」

普段は誰よりも男前な性格なのに
こういう所は乙女だなぁと思う。

『何も、告白までするわけじゃないんだし……ね?』

好きな人にそれも先生に
渡すとなるとかなりの勇気がいる。

それは、私も分かってる。

マー君とのことがバレたのは三年の時だから
一、二年の時のバレンタインは渡すのに緊張したのを覚えてる。

「分かった……

先生の分も作る」

明日が楽しみだ。

作り終わった時にはお昼を過ぎていたけど、
チョコ作りに専念し過ぎて忘れていた。

とりあえず、これで明日のバレンタインの準備は整った。

ちょっと遅い昼食を自分達で作って食べ、
今度は私の部屋に集まった。

皆、失敗することもなく綺麗に上手く出来てよかった。

夕飯までしばし休憩。

昼食が遅かったから夕飯は八時頃に食べ、
十一時半に寝た。

翌朝、六時半に起き、五人で学校へ向かった。

勿論、昨日作ったチョコを忘れずに持って。

私は帰りに高校と実家に寄って渡すつもりだ。

理香も恋も無事に渡せたみたいだ。

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