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週末に遭遇した件について

『藍原さ~ん』

元気よく自分の名前を呼ぶ
聞き慣れた声に振り向くと
ニコニコした裃が手を振っていた。

『裃……』

偶然なんだろうがまさか
週末にまでこいつの顔を
見るとは思っていなかった。

「あなたの知り合い?」

隣を歩いていた妻に()かれた。

『会社の部下なんだが
妙に俺に懐いてるんだ』

嫌そうな表情(かお)をした俺とは
対象的に妻の表情(かお)は楽しそうだ。

『初めまして、
裃多佳良(かみしもたから)
と申します。

藍原さんにはいつも
お世話になっております』

俺達の側まで来た裃は
妻と息子に挨拶をした。

「初めまして、
妻の藍原遙緋(あいはらはるひ)です」

「息子の
藍原遙壱(あいはらよういち)です」

三人が挨拶しあってるのを
俺は黙って見ていた。

妻達は裃が“単に”
懐いているだけだと
思っているんだろう。

だが、違う。

実際は俺に“恋愛感情”を抱いている。

現に“抱いてください”
と言われたこともある。

裃はイケメンの部類だし、
よく女子社員に囲まれている。

{枯れ専}だとか{B専}だとか
まぁ、色々、
嗜好はそれせぞれなわけだが
何でまた、妻子持ちの俺なんだか……

はっきり言って、俺は“普通”だ。

不細工ではないがイケメンでもない。

「この後の昼食なのだけれど、
裃さんも一緒にどうかしら?」

妻は裃が気に入ったらしい。

『お前なぁ、裃の予定も()かずに……』

『俺なら大丈夫ですよ♪』

言うと思った。

二人にはわからないだろうが
裃は俺といられて嬉しいと
ありありと表情(かお)に出ている。

まるでご主人様に尻尾を振る犬のようだ。

毛色も性格もラフコリーみたいな奴だ。

こいつが本当にに犬なら
尻尾をぶんぶん振っていただろうな。

『わかった、俺は
何処でもいいから決めてくれ』

無理やり裃を突っぱねたところで
何の意味もなさないし
下手に断れば家族にも
不信に思われるだろう。

だから、四人で昼飯を食うことにした。

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