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終話💓“愛してる”じゃ足りないくらい愛してる

夏休みが後五日で終わろうとしていた夜に
その電話はかかって来た。

夕飯も終わり、紅茶を飲みながら
二人でソファーに座って、週一でやっている
ドラマを見ている途中に鳴った。

『出なくてよろしいんですか?』

ディスプレイに表示された名前を見て
すぐにスマホを脇に置いたのが
気になったみたいだ。

『うん、後でかけ直すから』

一旦、切れたのをいいことに
そう言って納得させた。

かけて来たのは父さん。

当然、僕が夏休みを取っていることも
引っ越したことも知らないだろうけど、
今日は土曜日だから
電話をかけて来たのかも知れない。

母さんは察しがいいから
土曜日でもかけてこないんだろう。

風夜のことも気に入ってるから
僕達の邪魔をしないように
気を配ってくれている。

ということは、母さんが
父さんの近くにいないってことだ。

ドラマも次回予告に入った頃、
二回目の着信が鳴った。

はぁ~

『私のことは気にせずに
電話に出ていいのですよ?

何なら、向こうに居ましょうか?』

気を使わせてしまった……

『(隣《ここ》に居て』

答えた声は小さなものになってしまった。

『わかりました、
(ここ)居ます(๑•᎑•๑)』

話ている間にもスマホは着信を知らせている。

『《父さん、久しぶりだね》』

声は震えていなかったと思う。

だけど、風夜と繋いでいる手には力が入ってしまった。

「《お前、引っ越したなら
何故、教えなかった?》」

母さんが言うはずがないから恐らく、いや確実に
前のマンションに行ったのに違いない。

どうしようか……

とっさには言い訳が出てこない。

言ってしまおうか……

【大丈夫ですよ(๐•ω•๐)

何があっても私が守りますから】
と口パクで伝えて来た。

僕の心を読んだような台詞(せりふ)

『《母さんには言ってあるんだよ》』

手伝いにも来てくれたしね。

「《何で、俺には言わなかったんだ》」

|風夜(かれし)と暮らすからなんて
父親に言えるわけがない。

『《それは……》』

言葉に詰まっていたら
繋いでいない方の手を出して来た。

代われということらしい。

『《突然すみません、
春弥の恋人で浅利風夜と申します。

半年前から一緒に住んでいまして、
引っ越しもそのためです》』

会話が聞こえるように
スピーカーにしてくれた。

何も言わなくてもわかってくれる。

「《男だよな?》」

『《正真正銘、男ですね》』

父さんの口調は平坦で
電話越しでは怒っているのか
そうでないのか読めない。

「《何時から付き合っているんだ?》」

『《四年前からで、
出会いは春弥の仕事先の書店です》』

気付いたら、風夜に惚れていたなぁ
と頭の中で振り返ってみた。

「《そうか……

春弥に代わってくれるか》」

何を言われるんだろうか……

『《代わったよ》』

内心ビクビクしながら代わった。

「《お前の恋人が
“男”だっていうことには
はっきり言って驚いた》」

この際だから言ってしまおう。

『《そうだろね……

だけど、僕は
男の人しか愛せないんだ》』

物心がついた頃から女性に
ドキドキしたことがない。

さて、どんな反応が返ってくるだろうか……

「《少し考える時間をくれ……》」

そうなるだろうね(苦笑)

『《わかった。

落ち着いたらまた連絡して》』

昔から気付いていた母さんと違って
今日初めて、
僕が男の人しか愛せないことを
知った父さんはさぞかし驚いただろう。

こうして、父さんとの電話を切った。

*:.*.:*:。∞。:*:.*.:*:。∞。:*:.*.:* 

二ヶ月後の秋も深まる十月の中頃に
父さんから連絡が来た。

『《久しぶり》』

二ヶ月前と同じ#台詞__せりふ__#。

「《あぁ、久しぶりだな。

あのことなんだが……》」

僕達の関係のことだよな……

『《うん……》』

別れろと言われるだろうか?

また、見合いしろと言われるだろうか?

あの時《見合いさせられた時》のように
二ヶ月とかじゃなく今回は十日くらいの
泊まりの研究らしいんだけど
風夜がいないだけで思考が
どんどん、ネガティブな方へ向いてしまう。

「《今度、二人で家を来るといい》」

予想の斜め上をいくこたえが返って来た……

これは、どう
捉(とら)えるべきなんだろうか?

『《僕達のことを認めてくれるのかい?》』

悩んであれこれ憶測を
重ねるよりは
|訊(き)いてしまった方がいい。

「《まだ少し、戸惑っているが
お前の人生だからな……

ただ一度、お前の恋人に
会ってみたいと思ったんだ》」

緊張していた心が軽くなった気がした。

『《ありがとう、父さん‼

風夜と予定を調整して必ず二人で行くよ》』

とりあえず、後でメールをしなきゃ。

*:.*.:*:。∞。:*:.*.:*:。∞。:*:.*.:* 

それから、二人で実家に
行ったのは一ヶ月後の十一月中頃だった。

寒くなってきたこともあり、母さんが
味噌鍋を作ってくれた。

食事をしている間に
父さんと風夜が打ち解けてくれて
正直ホッとした。

今は夕飯後の後片付けを
母さんとしている。

父さんと風夜の会話は
聞こえないけど楽しそうでよかった。

泊まって行けばいいと
言ってくれた二人に
明日も仕事だからと断り、
今度は泊まりに来ると約束した。

家に着き、部屋着に着替えた。

一緒にお風呂に入り、洗いっこした。

途中でヤバかったけど、逆上(のぼ)せそうだったから
どうにか抑えて出た。

出た後も髪を乾かしあったりした後
寝室に向かい、ベッドに入って抱きあって眠った。

微睡(まどろ)みの中で思った。

風夜なしでは生きていけないと。

帰る場所があるから頑張れるんだと。

“愛してる”じゃ足りないくらい愛してる♡♡

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