第六話💓僕は彼しか愛さないし愛せない
後、半月で風夜が帰って来ると
楽しみにしていたある金曜日に
突然、実家から電話が掛かってきた。
嫌な予感を感じながら出ると
案の定、見合いの話だった……
嫌だな……
只でさえ風夜に会えないのに
見合いとか気が乗らない。
両親との電話を切った後、
僕はいてもたってもいられなくて
風夜に電話した。
『《こんな時間にどうされたんですか?》』
時計を見ると時刻は
夜中の二時を回っていた。
『《風夜、明後日
見合いさせられるんだ》』
僕は泣きそうだった。
『《会いたいよ》』
いっそう、泣いてしまいたかった。
『《私も会いたいです。
大丈夫、待っていますし
あなたを信じていますから
お見合いに行って来てください。
春弥、愛していますよ》』
風夜と話ていたら
ザワついていた心が少し落ち着いた。
『《わかった……
乗り気はしないけど
風夜が言うなら行ってくるよ。
僕も愛してる》』
大丈夫、大丈夫。
離れていても僕の心の中には
常に風夜だけがいる。
*:.*.:*:。∞。:*:.*.:*:。∞。:*:.*.:*
今日は見合当日。
写真を見る限り、
モテそうな可愛らしい女性だった。
もし、僕がノンケだったら
この見合いも
そこそこ乗り気だったかもしれないが、
生憎と同性しか愛せない上に
風夜という命よりも大切な恋人がいる。
友人もそこそこいるし
仕事もしているけど、
優先順位はお互いにお互いなんだ。
僕達はお互いに依存しあっている。
離れたくないし離れられない。
「憂鬱そうね」
母さんに気付かれた。
『乗り気じゃないのは確かだよ』
よくよく、話を聞くと
相手の女性は父さんが
勤めている会社の常務のお嬢さんだとか。
「あんた、恋人いるの?」
これまた直球で訊いてくるなぁ(苦笑)
『いるよ。
命よりも大切な恋人が』
風夜のためならいくらでも
僕の命を差し出す。
本人に言ったら凄く怪訝な
「そう。
相手はどんな“男の人”なの?」
母さんの台詞にハッとした。
『なんで……』
何時から気付いていたんだろうか?
「あんたが
“男の人”しか愛せないのを
昔から知ってたわよ。
だけど、お父さんには言えないまま
此処まで来てしまったわ……」
黙っててくれたのは母さんの優しさだ。
『風夜は科学者で優しい人だよ』
ベッドの中では時々意地悪だけどね(笑)
『四つ年下なのに優秀で
今は研究室に籠ってて
後、半月で帰って来るんだ。
僕が見合いさせられるんだって
話したら信じて待ってるから
って言ってくれたんだ』
一昨日の電話での会話を思い出す。
「あら、いい人ね(๑^ ^๑)
あなたをちゃんと愛して
くれているってわかってよかったわ」
一つ疑問に思った。
『母さんは僕が“男の人”しか
愛せないことをどう思っているの?』
会話の中に嫌悪感を
感じている様子はなかったけど
孫の顔は一生見られないし
見せてあげられない。
「私ね、あんたが#
相手が女だろうと男だろうといいのよ。
ただ、お父さんは
理解してくれるかわからないけどね」
だろうなぁ。
『風夜も両親に
話せていないって言ってた』
仕事が忙しいと言って誤魔化しながら
実家に帰らない
「まぁ、そんなものよ。
私は偶々、気付いただけ」
専務と話いた父さんが
戻って来たからこの話は終わった。
「私はあんたの味方よ」
若者同士の方が話やすいだろうと
専務が僕達を藤の間に押しやる直前に
母さんが耳元で囁いた。
ありがとう、母さん。
その後、彼女が幾つか
質問してくることに対して
一言二言返すだけで
僕達の間に
殆ど会話は生まれなかった。
こうしているとよくわかる。
風夜とはどんな話題にも欠かさないし
ふざけあって大笑いすることもある。
だけど、彼女には
初対面だということと僕が
風夜を愛しているということを除いても
惹かれるものはなかった。
僕が愛いしているのは風夜だけだ。
数時間後、僕達の見合いは
勿論、破談となった。
内心ではホッとしている。
母さんはわかっているだろうけどね。
父さんは不満そうだったけど
相性も大事だなと言って
どうにか、納得してくれた。
惹かれるものがない上に
僕は同性愛者だから女性を愛せない。
そして、何度でも言うが
風夜だけを愛している。