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第6話 草むしりのついでに

 この時期にしては珍しく晴れた日の放課後。コレタマ部の面々は裏庭に集合していた。
 
「第一回、ボランティアたいかーい!」
 
 (はるか)が威勢よく宣言すると、星弥(せいや)もそれに乗って歓声とともに拍手を送る。
 そんな二人をよそに、ジャージ姿の蕾生(らいお)鈴心(すずね)は気がのらず白けていた。
 
「やっぱ、こういうのもやるのか」
 
 蕾生が肩を落として溜息を吐くと、軍手を手渡しながら永が軽快にそれを打ち消そうとする。
 
「まあね、たまにはやっとかないと部室取り上げられたら大変じゃない──と言う訳で、今日は校内草むしりをしまーす!」
 
「さすがハル様、尊い精神です」
 
 言葉と裏腹に鈴心の顔は強張っている。
 
「お前、真顔でお世辞言うのやめろ」
 
「失礼な。私は本心から言ってます」
 
 憮然とした表情で睨み合う蕾生と鈴心の間に星弥が割って入った。
 
「すずちゃん、わたし達はあっちの植え込みやろう」
 
「いえ、私はライと組みます」
 
「──は?」
 
 思いもよらない鈴心の言葉に、蕾生は思わず声がうわずった。
 驚いたのは星弥も同様だったが、意外にもすんなり納得して蕾生の二の腕を叩く。
 
「そっか、わかった。(ただ)くん、くれぐれもよろしくね!」
 
「あ、ああ……」
 
 蕾生がとまどっていると、鈴心が顎でついて来いとでも言うように歩き出す。
 
「僕らは組まなくてもいいか」
 
 あてが外れたのは永も同様で、星弥と目が合ったけれども特に感情を出さずに確認した。
 
「うん、そうだね」
 
 星弥も短く返答して、永とは別の方向を目指す。
 そんな二人のやり取りを見た鈴心は心配そうに蕾生に尋ねた。
 
「ライ、二人は仲が悪いんですか?」
 
「いや……合わないだけだろ」
 
 その話題を掘り下げることはなく、鈴心はしゃがんで草をむしり始めた。蕾生もそれに倣って隣で草を摘んでいく。

 
 
「で? 何か用かよ」
 
 蕾生は視線は地面に置いたままで、鈴心に自分と組んだ意を問う。
 
「ええ。貴方と認識の擦り合わせをしたくて」
 
「ふうん」
 
「今回はどうなんですか、力の方は」
 
「なんでお前知ってるんだ?」
 
 唐突に直球で聞かれて、思わず蕾生は手を止めて鈴心の方を向く。
 
「あ、すみません。ハル様はそれもまだ貴方に伝えてないんですね。ええと、大丈夫ですか?」
 
 鈴心も些かの驚きを隠せずに、やや動揺した後蕾生を気遣った。
 
「何が? 永もお前も心配し過ぎじゃねえの?」
 
「まあ、それは慎重にやらないといけないので。でも、そうですね、大丈夫そうですね。ハル様には後で謝らないと」
 
 永も同じようにそうやって蕾生をいちいち気遣うが、当の本人は食傷気味になっている。だが不満を言っても仕方ないので、蕾生は続きを促した。
 
「で? 俺の怪力って毎回出てる力だったのか?」
 
「いえ、最初からではありません。私達の尺度ですけど、あなたが剛力を持って生まれてくるようになったのはごく最近です」
 
「へえ、そうなのか」
 
 永から聞かされていない情報が聞けるかもしれないと、蕾生は少し緊張した。
 
「最初は人より少し力が強い程度でしたが、ここ数回の転生のうちにどんどん力が強くなってきていました」
 
「へー」
 
 それでも永に釘をさされているので、蕾生は平静でいようと努める。指先で雑草を摘みながら相槌を打った。
 
「今回もだいぶ強そうですね」
 
 そんな蕾生の作業を見ながら鈴心がそう評する。
 
「まあな、俺は比較できねえし、だいぶ前に永に力は使うなって言われてここまできたからマックスはわかんね」
 
「一番古い記憶では?」
 
「ええ? そうだな、ガキの頃──親父の単車くらいは余裕で持ち上げたかな」
 
 そこまで掘り下げるかと思いながらも蕾生は古い記憶を辿る。幼少の頃、父親のオートバイをふざけていじり、自分に倒れてきたので思わず掴んで放り投げた事を思い出した。
 おかげでバイクは大破してしまったが、父はそんな蕾生の力を恐れることもなく、真っ当にこっぴどく叱って夕飯を食べさせてもらえなかった。
 
「親御さんはそれをご存知で?」
 
「ん。まあ、でも、別に普通に暮らしてる。しょっちゅうドアとか壊すけど」
 
 思えば両親は蕾生の怪力に困ることはあるが恐れることはない。だから蕾生は永に会うまで自分の力が人と違うことを知らなかった。それはきっと幸せなことなんだろうと思う。
 
「そうですか。前にハル様を片手で持ち上げていたので、今回も強そうだなとは思っていました」
 
「ああ、あん時な。そういえば、途中ででかい植木はどかしたな」
 
 鈴心の言葉に初めて会った時の事を思い出す。あんなに焦ったのはバイク事件以来かもしれないと蕾生は思った。
 
「重かったですか?」
 
「全然」
 
 植木の重さなど今となってはさっぱり思い出せない。

「そうですか……」

 鈴心はそう相槌を打った後、押し黙った。

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