26話 新たな仲間と新たな敵
メーシャは覚悟を受け取り、灼熱さんを仲間へと勧誘したのだった。
「あーしはドラゴン=ラードロを倒して、邪神を倒して世界を救うけど……あんたはどうすんの?」
メーシャは挑発的に笑う。
「あっしは……あっしは……」
灼熱さんは迷いを持った目でメーシャとヒデヨシとバトルヌートリアとデスハリネズミ、そして己の手のひらを見回す。
死地におもむくつもりであった。せめて世界に、ドラゴン=ラードロにゲッシの魂ありと見せつけられればそれで良かった。子分の無念だけでも晴らせれば良かった。それさえ叶えばもうどうなっても良かった。
だが…………メーシャのひと言で灼熱さんに欲望が、期待が、想い描きたい明日が生まれてしまった。
「メーシャお嬢様って実戦で負けたことないんですよ。それに、もしまたラードロになったとしても、僕やお嬢様がいれば何度でも戦えます」
ヒデヨシが力強く頷いて見せる。
「ワシは灼熱さんがこの勇者のお嬢ちゃんについていくなら応援させてもらうぜ。会ったばかりで滅多なことは言えないが、こんなどこの馬の骨とも分からねえゲッシなのに必死に住民になれるよう取り計らってくれたんだ」
「あたいは灼熱さんがゲッシの誇りをドラゴン=ラードロに見せつけてくれるのは嬉しい。でも、
バトルヌートリアとデスハリネズミが後押しする。
「ふたりとも……。そうだな」
灼熱さんの瞳に炎が宿る。
「……お嬢、ヒデヨシさん、訊いても良いかい?」
灼熱さんがメーシャに向き直る。
「なあに?」
「アツくなりすぎると周りが見えねえようになる。それでも一緒にいてくれんのかい?」
「見えないなら僕が目になりましょうか? 僕も実は炎の扱いが上手いんです。灼熱さんのアツさの向きくらいなら調整しますよ。でも、その代わり……」
灼熱=ラードロ戦で手に入れた能力のおかげで、格段に炎の扱いが上手くなったヒデヨシ。火力は負けるだろうが、細かい作業なら自信アリだ。
「火力なら誰にも負けねえぜぃ!!」
「じゃあなんも問題ないね。火力期待してるよ」
「…………あともうひとつ。メーシャのお嬢、あっしはあんたの傘下に加わるわけだ。だからお嬢、あんたがやべぇ時あっしは命を張らせてもらうつもりだ。その代わり、と言っちゃなんだが……あっしの
──バッ。
灼熱さんは勢いよく頭を下げた。誠意を見せたのだ。
「……分かった」
メーシャは短くそう答えた。余計な問答はもういらないと思ったからだ。
「ありがてぇ……!! では、このハムオブザスター灼熱を……あっ、よ〜ろ〜し〜く〜!!」
灼熱さんが仲間に加わった。
● ● ●
結局デスハリネズミとバトルヌートリアは泉の洞窟のこの拠点住所とし、農業をなりわいとしていくことになった。
ある程度の経験はあるが、ハムオブザスターという種族の才能を考えれば足を引っ張ってしまうことがほぼ確実なので、そうなるくらいなら
灼熱さんはメーシャの仲間、つまり臨時騎士の預かりとして登録。対ドラゴン=ラードロ作戦後には功績しだいで正式な騎士になるか、一般市民となるか選択できる。これで晴れてアレッサンドリーテの住民となった。
「たしかまた近いうちに、ラードロに奪われた砦を抑えるんだったっけ?」
今日はカーミラ宅で今後の予定を立てるのも踏まえて、メーシャとカーミラとヒデヨシでアフタヌーンティーを楽しんでいた。灼熱さんとデウスはゲッシのみんなで農場の方だ。
お家の壁は薄い水色で二階建て、庭もウッドデッキやある程度の家庭菜園ができる程度と外観は派手ではないものの、中に入ればシンプルながらも上質な家具家電が取り揃えられていて、しかも執事のおじいちゃんのお出迎え付き。さすが近衛騎士団長だ。
「そうね。元々廃れた廃墟のような砦をオークが占領してたんだけど、そこに目を付けたラードロ軍がオークたちを手下にして砦を補強、近隣の町やアレッサンドリーテ軍を襲ってるとか。そこは行軍するには無視できない位置にあるから、準備ができ次第砦を取り返そうと決まってね」
やわらかな花の香りがする紅茶をひとくち。
カーミラは今日一応オフなので、珍しくいつものブルーミスリルメイルを着ていない。
淡い緑の絹のワンピースに濃い緑のカーディガンだ。
「それってあーしも参加すんの? ドラゴン=ラードロ前にできるだけ戦闘経験を積んどきたいんだけど」
メーシャはカーミラ特製の苦いお茶だ。気に入ったらしい。
ちなみにメーシャも今日は制服や体操服ではなく、ノースリーブのトップスにショートパンツとカジュアルスタイルだ。
「そうですね、お嬢様が今戦えているのは灼熱さん以降トレントくらい。プルマルも逃げちゃいますし、街の周辺は平和そのもの。このまま決戦というには不安が残りますね」
ヒデヨシが両手で紅茶のカップを傾ける。
「う〜ん…………今からだと遊撃隊ということになるけど、参加する? 役割はジョセフィーヌ殿下の安否がわかる情報を探すことだから、戦闘できるかは分からないけど」
カーミラはまいにちのようにメーシャとお話をしているので、今ではなんとか敬語を使わなくても緊張しないようになった。
「うん、やるやる! 機密情報とか集まってるとこなんて幹部とか居そうだし、むしろあんがとね!」
「あ、でもそれまで少し時間があるし、先に別件でモンスター討伐の依頼が来てるからメーシャちゃんに回そうか。それと、最近はメーシャちゃんが頑張ってくれたおかげで街の中も静かになってきたから、良い機会だし冒険者ギルドに行ってみるのも良いかも」
カーミラがスマホのようなタブレットをスワイプし、データが色々描かれたホログラムを空中に出現させる。
「ギルド! いいかも! ゲームとかアニメ好きなら一度は憧れるロマンの塊! 職業診断というか、適正みたいなの測ってもらえるのかな?」
メーシャはワクワクで胸いっぱいだ。
「志望者の冒険者適正だとか、職業適正、クエストの得手不得手を診断する魔法機械がギルドにはあるらしいよ。詳しくは知らないけど、診断が正確だからクエストの無理な受注が減って、その機械導入してから亡くなった方が10分の1以下に減ったとか」
「おお、すご! これは絶対やってみないとだね。……そんで、モンスター討伐ってのは?」
「これは比較的緊急の依頼で近隣住民は既に避難済みなんだけど、なかなか厄介なモンスターでね。……数百年前当時のアレッサンドリーテ王と賢者数十人、数百人の兵士の命と引き換えに封印した、獅子の頭と蛇の尻尾を持つ山羊のモンスターだとか。その封印がつい最近何者かによって解かれた。
能力についての記述はないけど、強力な上に縄張り意識が強いからヒトも他のモンスターも数多くが犠牲になったみたい。
当時の兵の練度や魔法技術は今ほどでは無いにしても、この量の被害が出ているのは異常ね。今の騎士が戦ってもタダじゃ済まないかも。それで名前は、えっと…………」
カーミラがホログラムを操作して名前の欄を探すが、メーシャはその特徴に聞き覚えがあった。もし勘違いでなければ、そのモンスターの名前は……。
「──