ジャン=クロード・ラ・ドーファン
「もう一度、僕に向かって言ってみて」
『エミーナ・ド・ロマーヒ』
「へミーラ……オ……ロマーヒ?」
惜しいけど、違う。
「娘よ、文字は書けるかな?」
エミーナはかぶりを振る。
「困ったことだ。名前がわからなければ、正式な婚約発表ができない。このままでは王子とそなたは結婚できない」
自分の名前を伝えられないから、王子さまとは結婚できないなんて。悲しくって涙が滲む。せっかく両想いになれたのに……。なんとかしなくちゃ。
すると王子さまがペンを取って紙に何か書きつけると、エミーナに見せた。
「ジャン=クロード・ラ・ドーファン。これが私の名前だよ。こんなふうに、君も自分の名前が書けたら良かったのになあ。そうすれば君の名前を知ることができて、正式な婚約発表ができて、君と結婚できるのに。君の名前を呼ぶこともできるのに」
エミーナは何かを決意したように頷いた。そして王子さまからペンを借りると、彼が書いた名前の下に、同じように真似をして文字を書き始めた。文字を書けるようになりたいのだ。
「いや、それは僕の名前だから……。あ、そうか。文字の読み方がわかったら、自分の名前を綴れるかもしれないね。父上、いかがでしょう? 彼女に文字を教えてみては?」
「もしかしたら、うまく行くかもしれぬ」
「ねえ、可愛い絵描きさん。文字を学んでみるかい?」
エミーナは意志的な表情で王子さまと国王さまに強く頷いた。
「では、そなたに優秀な学者を教師として付けよう」
エミーナは国王さまに嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見て王子さまは励ます。
「よし! じゃあ一緒にがんばろう!」
エミーナは王子さまに嬉しそうに頷いた。