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国王の願いとエミーナの欲しい物

 ここは国王さまの私室。
 三日前、王子が海難事故に遭ったと聞いた時は生きた心地がしなかった。二日前、愛する息子が帰ってきたので涙を流して喜んだ。ところが息子は、命の恩人である修道女への叶わぬ恋に苦しんでいたのだ。なんとかしてやりたいが、国王と言えども相手が修道女では、どうする事もできない。修道女とは、言うなれば神の花嫁なのだから。
 国王さまは一人の父として息子の幸せを切に願い、今日も息子にふさわしい女性が現れる事を神に祈り求めたところだった。

 そこへ王子さまが、エミーナを連れてやって来たのだ。
「父上! 緊急重大報告です。この娘が私の一番の命の恩人だったのです!」
 国王さまは驚いた。
「おお、そなたが王子の命の恩人であったか! よくぞ大事な我が息子の命を救ってくれた。ではそなたに感謝の印として、何でも欲しい物を与えよう。遠慮せずに言ってほしい」
 そこでエミーナは、「彼を」というふうに王子さまに両手を差しのべ、次に「私に」というふうに両手のひらを交差させて自分の胸に当てた。
 その姿を見てエミーナの気持ちを理解した国王さまは、王子さまに問いかける。
「王子よ、どうするかな?」
「はい。もちろん、喜んで! 彼女は命の恩人ですし、私は彼女を愛していますから」
 王子さまはきっぱりと答えた。
「娘よ、名前は?」
『エミーナ・ド・ロマーヒ』
 エミーナは口を動かすが、声は出ない。
「エミーラ……オ……ロマーイ?」
 かぶりをふるエミーナ。
「父上、彼女は声を出せないのです」
「それは別にかまわぬ。意思の疎通さえできれば」
「できます。身振り手振りと絵で。ねえ、可愛い絵描きさん。僕に向かって言ってみて」
 王子さまが言う。
『エミーナ・ド・ロマーヒ』
「唇の動きで『エミーラ……オ……ロマーイ』と言ってるように見えますが……」
 王子さまは父王に言う。
「どうやら、そうではないようだ」
 国王さまは困り顔。エミーナは残念そうにうなだれる。

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